西側同盟諸国のココロの隙間を突くもの

プーチン「どーん!」


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42242
最近のロシア外交政策で見られる「核兵器ネタ」について、結構面白い評論。世界の心臓で「ロシアには核兵器がある」とプーチンは叫ぶ。

 「戦術核兵器について言えば、現在のロシアは北大西洋条約機構NATO)に対しかつてないほど優位に立っている。米国はこのことをしっかり認識している。彼の国は以前、ロシアはもう二度と台頭しないと確信していた。今となってはもう手遅れだ」

 ロシアの核について文章を書くにあたり唯一ためらいを覚えるのは、これでは先方の思うつぼではないか、ということである。ロシア政府がわざわざ核に言及するのは、西側の評論家にロシアの核の脅威について語らせるためでもあると考えてほぼ間違いない、と筆者は見ている。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42242

おそらくこれはその通りで、更にもう一歩先にある目標としては、危険性を強調=マッドマン・セオリーを思い出させることで西側同盟諸国の連携を乱すことにあるのでしょうね。ただでさえ核兵器及び防衛用ミサイルのような『核抑止力』って同盟国間でも議論の割れる、荒れるネタであるわけで。「見せびらかしている間」は一枚岩だとは決して言えない欧米各国の間に、更なる対応の差が、そして覚悟の差が生まれるのも間違いない。
もちろん実際に使ってしまってはまったく逆の効果をもたらす可能性が非常に高い。ISISを飛び越えての『世界の敵』認定確実であります。その意味では、やっぱり「脅し」というのが適切な見方でしょう。
ゲームの掛け金を上げることで、そのライバル同盟の和を乱そうとしているプーチンさん。半ばブラフだと解っていながら、しかし核兵器の存在を無視することなんてできない西側同盟諸国たち。


まぁこれは孫子大先生時代から言われる基本的な分断戦略ではありますよね。そして現代世界においても見慣れた光景である。
それこそ潜在的な緊張関係は欧米の間にあるし、タイミングが悪いことに欧州連合内部においてもユーロ危機を巡ってそれはもう足並みが乱れまくっているわけで。対露制裁を見てもそれは明らかですよね。欧州連合の事実上の盟主となったドイツが対露外交を主導することに、潜在的な不満を持つ国は一杯あることでしょう。おそらくヨーロッパにおけるユーロ問題は対露政策に悪影響を与えるし、逆に対露政策はユーロ問題に悪影響を与えるのではないかと。
そして狡猾なプーチンさんは見事にその各国のココロの隙間を突こうとしている。
最近のニュースでもしばしば日本の対露制裁が本気でないとか、あるいはプーチンさんの訪日予定が色々語られていたりしますけど、あれって日本独自の外交政策が云々かんぬんというよりも、むしろ欧米間にある自分たち自身の連携が危ういことからの言い掛かりに近いモノでもあるわけで。幸か不幸かはともかくとして、その意味ではやっぱり私たち日本は脇役でしかなく、むしろプーチンさんによるヨーロッパ分断の布石として日露関係がある、という方が正解に近いのだと思います。


ともあれ、でもこれらのお話はまったく他人事ではなくて、また別の構図――それこそ中国さんだって日韓や東南アジア方面では同じことを現在進行形でやっているわけであります。
ライバルの同盟各国間にある緊張を煽ることで連携を乱そうとする。それこそヒトラーからフセインやらミロシェビッチが試しては概ね上手くいってきた戦略。まぁほとんどは――なまじ上手くいってしまうからこそ、やがてやり過ぎて失敗しちゃうんですけど。


がんばれヨーロッパ。