今更「ロシアにはロシアなりのやり方を認め、長い目で見守ろうではないか」なんて欧米は言えるの?

ケナンの「封じ込め」とダレスの「巻き返し」という70年以上続く対露政策の選択肢。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42308
ケナン大先生の手法に回帰しようと叫ぶヨーロッパ。まぁ今更と言えば死ぬほど今更なお話ではありますよね。なんてったって70年も昔から言われていた手法でもあるわけで。

 もしモスクワが取引を拒むのであれば、ケナン氏の処方箋の残りの部分を再読し、実行する時が訪れる。そして我々は反撃能力と封じ込めの世界に逆戻りすることになるのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42308

ただまぁ――もちろんポジショントーク的には当然なんですが――むしろ問題はロシアの取引へのコミットというだけでなく「封じ込める」欧米の側がそうしたケナン流の対ロシア政策で満足できるのかっていう根本的な問題があるわけですよ。
ケナン先生の封じ込め論のもう一つの根幹を成す「ロシアを見守り時間を与えよ」というものを守れるの?


そもそもケナン大先生が所謂『X論文』で唱えたのは、対ソ政策には三つの要素「戦略的決意」「忍耐」「楽観論」が必要だと仰っていたわけです。
勢力拡大を防ぎ現状維持のためには何でもやるという決意を見せる一方で、しかしその防衛ラインを越えてまでは干渉せず、長期的な時間経過によってソ連が内部変化が起きることを期待する。故にこれはソ連「封じ込め」政策である。
――そしてその上で、ソビエトへの内政問題への口出しが過ぎれば必ず彼らの尊厳を傷つけ逆効果である。つまり「ロシアにはロシアなりのやり方を認めよ」と。


ところが現在見ている風景にあるように、21世紀現在の欧米の皆さんってそれとはまったく違う、上記ケナン先生の主張とは真逆の手法をやっていますよね。傲慢な超大国アメリカだけでなく、ユーロ危機以前には欧州統合で自信をつけたからなのか、同危機以後には八つ当たりなのかむしろヨーロッパ人たちこそ毎日のようにロシアに「正しい道理」を教えてやるとばかりに上から目線で説教をしまくってきた。ロシアが変わるのは遅すぎる、プーチンは消えろ同性愛を認めろ自由と民主主義を急げヨーロッパ人になるのだハリーハリーハリー。
いやまぁもちろん現代日本に生きる個人としては概ねその道理に同意する所ではあるんですが、だからといって、そんな神経質に外野から口出しをしても相手から反感を買うのは当然の帰結でしょう。それは戦後の米ソ関係を定義したケナン先生の『封じ込め』というよりも、同じく戦後すぐの時期に主張されながらアイゼンハワーに採用されなかったダレス先生の『巻き返し』に近い。
こうした構図の元にあるのは、1970年代後半からブレジンスキー先生らによって進んだ米国の対露政策の変化であります。ダレス流の巻き返し政策=現状維持ではなくソ連勢力圏へ積極的に変化の圧力を掛けるやり方の復活。アフガニスタンのムジャヒディン、アンゴラの反共ゲリラ、ニカラグアコントラ等々の武装抵抗運動を支援することで間接的にソ連を弱体化させ巻き返す。
つまりアメリカの対露外交政策と言うのはそうやって徐々に変化してきたのです。戦後初期のケナン流封じ込め→デタント→巻き返しの復活→レーガンドクトリン→冷戦終結と、むしろダレス流の巻き返しの進歩の果てにこそ現在の対ロシア国際関係というものはあるわけで。
現代のウクライナ危機でも尚ブレジンスキー先生なんかの存在が語られるのはそういう理由があるからなんですよね。ケナン流封じ込めからダレス流巻き返しへと変化させた当事者だった彼だからこそ。ロシアの勢力圏に民主化運動支援を名目にその変化圧力を仕掛ける現代版の巻き返しとして。




さて翻って、ウクライナが見事に分割された現在。見事に痛い目に遭ったことで、いい加減もうそうしたダレス流な対露政策はやめようという声が出てきた。外交リアリストたちの復活。まぁ是非はともかくとして、それは一つの変化ではあるのでしょう。
ただ「戦略的決意」を以て対ロシア『封じ込め政策』を復活させるのはいいとして、本当に無邪気な善意溢れる欧米の人たちは長期的に「忍耐強く」ロシア内部での「自発的変化」を待つことができるの?
もし仮にこのグローバルでIT化の進んだ現代世界において、例えばロシア政府の横暴が見えた時、それでも尚忍耐強くロシアとの必要最低限の関係を維持しつつも妥協し冷静に政治的取引をできるの?


ぶっちゃけケナン流『封じ込め政策』でロシアと取引する上でのハードルって、単純に戦略的決意云々と言うよりも、むしろこっちの方が問題じゃないかと思います。実際問題として、そうした口出しの反作用として生まれたのが強硬なプーチン政権でもあったわけで。かつてのようにロシア国内の情報が入らないなんてことありえないし、同じくその光景を見て素朴に燃え上がる市民感情を欧米の民主的政治家たちは簡単に無視できない。
「ロシアにはロシアのやり方を認め長い目で見守ろうではないか」なんて。
概ね他人事な中国相手では欧米の皆さんは上記のような言葉を白々しく言ってくれますけど、文字通り「隣人」であるロシアに対しても同じく忍耐強く待つことができるの?



みなさんはいかがお考えでしょうか?