ポスト人種主義の時代

ダブルスタンダードは、ありまぁす!


米カリフォルニア州でデモ隊が暴徒化、黒人死亡で警察に抗議 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News
黒人に対する病的な人種差別と司法制度の崩壊 | アメリカ ウオッチ Yuko's Blog
ということで尚も二重の意味で――議論としてだけなく物理現象としても――大炎上しつつある警察による黒人差別的な取り締まりについての大論争であります。

警察は何らかの犯罪の証拠を握った場合、その証拠を地元の地方検事(DA)に引き渡し、DAはその証拠を大陪審に引き渡すシステムになっている。大陪審の任務は、殺人者の犯行の証拠を重視するべきであり、それらの証拠を比較論議するのは本来裁判大陪審の任務である為、現実的には実際に市民に危害を加えた警察官が簡単に不起訴処分されること事態が不自然である。従って、不起訴処分が決定した時点で、正義を追求するプロセスは切断される。米国最高裁の主席判事ジョン.ロバーツが以前語った通り、司法システムは時間とコストのかかる裁判および事務的費用を削減している為、既に司法システムは「市民の為に機能していない」ことが根本的な問題かもしれない。

黒人に対する病的な人種差別と司法制度の崩壊 | アメリカ ウオッチ Yuko's Blog

まぁそもそも論をすれば、現代国家における(特に刑事)司法制度が目指す『正義のプロセス』って別に個人の感情や善悪の追及を最重要の目的にしているわけではないわけで。つまり、国家社会が司法システムを使って目指しているのは私的報復抑制・遵法規範意識醸成・市民権利保護・犯罪者更生・犯罪抑制であり、つまり一言で言えば徹頭徹尾「社会治安の維持」であるわけですよ。実際、より凶悪な犯罪を取り締まるために、軽微なそれを見逃す司法取引なんかはあちらでは一般的な行為であり、まぁよくある話ではありますよね。
――社会全体の治安維持こそ大正義であり、その為には多少の個人の犠牲や不公平は仕方ない。
まぁこれを『正義』と呼ぶかどうか、あるいは「市民の為に機能しているか否か」については人それぞれご意見ご感想あるでしょうけども、しかし多かれ少なかれどこの国家もこれを最重要事項の目的として目指している。おそらくこの文脈で言うような責任所在の追及(=白黒つける)という意味では民事司法の役割だったりする。
もちろん根本的にそうした現代国家が持つ司法制度に欠陥*1がないわけでは絶対にないものの、少なくともこの点で見れば、別に司法プロセスが崩壊していると言うのは言い過ぎかなぁと。警察とそれ以外の大多数の一般市民の『基準』が異なること自体は(それを厳しくするか緩くするかはともかくとして)あって当然じゃないかと。


でも一方で、そうした現代社会の司法プロセスに大前提としてあるのが、どのような当事者であれ――政治的・経済的・社会的地位に関わらず――平等に扱われる、という基本原則でありまして。もちろん現実には「多少の」不公平さは様々に婉曲した形を取りながら存在していてその点は否定できない事実ではありますが、しかし建前として弱者差別は決して越えてはいけない一線ではあります。
もし仮に現代アメリカ社会においてこの点が崩れているとすれば、それは確かに司法プロセスの根本的な瑕疵であり、現在のように大問題となるのも頷けるお話であります。
法務執行にダブルスタンダードがあるのか否か。まぁもしそれがあるとすれば、あるいはそれが存在すると信じているのならば、こうして大騒動になるのも頷けますよね。


人種対立暴動の背景にある3段階の差別とは | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
でもやっぱりそれって上記でも書いたようにそもそも警察が起訴される場合の特殊性や、あるいは冷泉先生なんかが仰るように複雑に絡み合う差別の性質を考えると証明のハードルは高いわけで。

 一方で、警官の側を支持する人々の心情には「逆差別」の感覚、つまり「合法的な正当防衛なのに、それに対する抗議デモが正義であるかのように報道するのは逆差別だ」というような感覚があると思われます。要するに「白人が白人を撃てば正当防衛だが、白人が黒人を撃つと人種問題になるのは、白人への逆差別だ」という感覚です。

 これは相当程度に主観的な問題であり、人によって見方が異なります。例えば、抗議行動を支持する立場としては「射殺にいたったのは人種偏見が大きな要素としてあるのだから、白人が白人を撃ったケースとは違う」という強い思いがあるわけです。要するに黒人の人命が軽視されているというのです。

 ですが、警官を支持する人は「白人の方が悪者にされて損だ、むしろ被害者だ」という理解になります。この「逆差別論」というのは、実は人種分断の大きなファクターであり、結果的に社会全体が差別を克服する障害となります。これを「第3の差別」としてもいいでしょう。

人種対立暴動の背景にある3段階の差別とは | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

米国史上初の黒人大統領が直面する未知との遭遇 - maukitiの日記
先日の日記でも書きましたけど、やっぱりこうした空気は「オバマ時代だからこそ」出たという面はあるのでしょうね。黒人だけでなく白人の側もまた等しく率直な声をあげるようになった。
――それが幸か不幸かは解りませんけど。
ただその構図ってアメリカだけでなく、ヨーロッパにおけるムスリムの扱いや、あるいは昨今の日本にある嫌韓・嫌中でも同じだったりするのでしょうから、やっぱり他人事ではありませんよね。


がんばれ人類。

*1:刑事司法における犯罪被害者の救済とか