人にやさしいCIA

「人にやさしい無人機爆撃」と同じ意味での優しさ。



http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014121001000772.html
スパイ組織CIAが陥った「腐敗」 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということで発表によって大騒ぎのアメリカさんちの事実上の拷問のお話。「正義の為には拷問も仕方ない」なジャックバウアー症候群的ななにか。まぁそれこそイラク戦争での捕虜の扱い等々以前から指摘されてきたお話ではあるので、少なくともニュースを追ってきた人たちにとっても大きなニュースなのかというかとそうでもないよなぁと。やっぱりアメリカはアメリカだよね、というだけ。きっと次の共和党政権ではオバマさんの容赦のない『無人機作戦』の内幕なんかが暴露されちゃうんじゃないかな。
――まぁこうした国(のメディア)から「日本の人権意識は遅れている!」と叩かれているのだから、くすっとしてしまうお話ですよね。


ともあれ、なぜ彼らが拷問へと至ったのか? についての冷泉先生のお話。

ですが、やはりブッシュ時代の「拷問に頼った情報収集活動」というのは異様です。これはスパイ組織が陥った腐敗と言っても過言ではないでしょう。では、どうしてスパイ組織はそのような腐敗に陥るのでしょうか?

 ブッシュ政権は「9・11同時多発テロ」という前代未聞の事件に直面する中で、1つの判断をしました。それは従来型の「ヒューミント」つまり人間による諜報活動によって収集された情報は信用ができないという判断です。

スパイ組織CIAが陥った「腐敗」 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ヒューミントに不信を抱いた故にシギント引いては拷問へと突っ走ったCIA、というのはまぁ同意できるお話かなぁと。でも、もう少しその背景をぶっちゃければ『9・11』まではイスラムのことなんて――一部専門家を除いて――アメリカでは、つまりCIAでも誰も気にしてなかったからそうなるのも当然の帰結なんですよね。
うちの日記で最近書き続けているテーマでもある、冷戦構造の変化による犠牲者としてのCIA。


そもそも『9・11』以前のCIAにとっての存在意義、彼らが全力を以てスパイしていた相手というのはそれこそ宿敵であった東側陣営でありロシアだったわけですよ。次点で重要だったのがせいぜい中国位で、伝統的に対東側へ人的資源を投入してきた彼らは、ほとんどイスラム世界のことなど気にしていなかった。もちろん表向き「全世界をカバーする」CIA内部にはそう思わない良識ある中東専門家も少なくなかったものの、当然の組織内政治力学としてそうした人たちは出世できなかったし、発言力もなかった。ちなみに中東軽視に至った別の理由として『裏切りの同盟』の中で元CIA局員であった著者は、サウジアラビアとの同盟関係による過剰な配慮と政治的圧力によって中東での活動が致命的に阻害されていたからだ、とも述べています。
――どちらにしても、かくして彼らは『9・11』後、青天の霹靂の事態にそれはもう右往左往することになるのです。
ものの見事に準備不足が露呈したCIA。でも事件後の付け焼刃で、繊細な扱いと長期的取り組みが求められるヒューミントをやっても上手くいくはずがなかった。ただでさえ未知との遭遇であるイスラム相手に、更に準備不足で専門家不足なのにスパイなんてやっても失敗して無駄に死人を出すばかり。あまりにも文化的価値観が異なるイスラム世界相手に、彼らは時間も経験も乏しかった。
そりゃ政策決定者たちが不信を抱くのも無理ありませんわ。


ここで一発逆転ホームラン。その問題を一挙に解決できるのは(スパイを潜入させるまでもない)『シギント』と、ついでに捕虜から情報を引き出す拷問もやっちゃえばスパイなんて要らないじゃないか!


こうした背景を考えるとCIAの腐敗と言うよりも、ただひたすら無能さと怠慢が招いた事態だよなぁとは個人的に思います。故にCIAは「対イスラム」という役割においては、せいぜいが無人機爆撃の案内人と牢名主が主になってしまったのではないかと。まぁ確かに身内の被害が出ない冴えたやり方ではあるのは間違いありませんけど。
自国局員の犠牲者が出なくて素晴らしいし、異教徒に人権はないから拷問したって別にいいよね。


かつての陰謀の中心的巨悪というポジションはNSAへ渡り、残ったのは使い走りのような(中の)人にやさしいCIA。