21世紀版『大東亜共栄圏』構想のソフトパワーでの大敗北っぷり

前回と違ってハードパワー比では大分マシなのにね。


「アジアはアジアで守る」中国・脱アメリカ宣言の思惑 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
現代中国の遅すぎた帝国主義

 歴史的に見て望ましくない理由もある。30年代に日本が提唱した「大東亜共栄圏」は、欧米の植民地支配に代わる新しい秩序を盾に侵略政策を隠そうとしたが、あまりに見え透いていた。

 中国にとって賢明な行動は、新しいスローガンを潔く下ろすことだ。

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中国の「アジアはアジアで守る」は大日本帝国時代の『大東亜共栄圏』とそっくりだよね、というお話。当事者であった日本から見てもそれなりに類似性はあるかなぁと。でも仕方ないよね、だって現状――大国たる自国に不平等な現状の国際秩序――にガマンできないのだから。
故にかつての私たちと同じく、彼らは行動を起こす。


まぁ「あの時の日本」と「今の中国」を比較した時に見える愉快で皮肉なお話は、ハードパワーの面で言えば前回よりも今回の方が明らかに大きな可能性を持っているわけですけども、それでも、ソフトパワーで言えばかつての大日本帝国の方がまだ可能性があった点だなぁと思います。確かにあの時の『大東亜共栄圏』というのは、今の中国の主張と同じレベルで「日本人の日本人による日本人の為のアジア支配」であり*1ひたすら利己的なおためごかしだったわけですよ。
――ただ、それでも、『宗主国』自身はともかく欧米支配を除去する植民地解放という点での説得力はあったわけで。
もちろん言うまでもなく、それって単純に当時の戦前日本が唱えたイデオロギーの優位性と言うよりは、植民地支配が尚当たり前だったという周囲の時代性がもたらす相対的な優位性でしかなかった。ただやっぱりそんな(その後の日本軍の行動はともかくとして)お題目=欧米からの独立に魅かれる人は、決して大きくなかったとはいえ、まさに植民地支配を受けていた多くのアジア各地にそれなりに居たのです。
でも現代中国が唱える主張はそのレベルにすら達していない。アメリカによる安全保障が無くなって欲しいと望むどころか、逆により強化して欲しいと望む程ですよ。
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以前も少し書いたお話ではありますが、大日本帝国の時にあった「欧米が支配しないアジアを願う者」よりも、現代中国が唱える「アジアはアジアで守るべきだと願う者」の方が絶対に少ない、というソフトパワーの面での見事な負けっぷりはあの時の日本のハードパワーでの負けっぷりに似ていて愉快なお話だよねぇと。
何という勝ち目のない戦い。戦前日本とアメリカの工業力の絶望的な差のようです。そういえば、そんな旧来あった植民地支配由来の既存秩序破壊を(一部といえど現地住民から支持される形で)大義にしているのがISISで、そのソフトパワーの類似性と言う意味ではあっちの方が近いのかもしれない。それはそれで複雑な気持ちにはなってしまいますけど。
アメリカに対して、全く勝ち目のないハードパワーの格差に直面した大日本帝国と、全く勝ち目のないソフトパワーの格差に直面する現代中国。致命的に『国力』が足りなかった日本と、致命的に『大義』が足りない中国。
両者の長所が悪魔合体すれば少しは勝ち目があったかもしれないのにね。あるいは東南アジア諸国が未だに欧米から植民地支配を受けていればずっとマシだったでしょう。
でも現実は、既に、そうではない。
まさに時代に遅れ過ぎた帝国主義そのもの。


でもまぁあの時の日本がそんな風にソフトパワーを上手く悪用する構図になってしまったことで、欧米宗主国たちによる植民地支配という権益に致命的なダメージを与えかねない所にまで至ってしまいかねなかったからこそ、ああして愉快なABCD包囲網なんてモノが完成してしまった面はやっぱりあるんですよね。嘘から出た実じゃありませんけど、なまじ説得力があってしまったからこそ本気を出されてしまった。
逆説的に、今の中国はそうではなくそこまでの広がりをもたない利己的な振る舞いだからこそ、見逃される可能性もあったりする。あるいは、もし先に別のどこかで前例が出来てしまえば、中国に対しても同じように見逃される可能性はやっぱりある。
その意味で言えば、こうしたソフトパワーの大敗北っぷりが功を奏することがあるかもしれない。


がんばれアジア。

*1:こちらも今の中国と同じで、概ね善意からそれを無邪気に信奉する人だって国内にそれなりに居たわけですけど。