プーチンは『ソ連崩壊』前夜の逆バージョンを夢見るか

今こそ「20世紀最大の地政学上の悲劇」を終わらせるのだ、なんて。


ウクライナはプーチンの作戦の一部に過ぎない:JBpress(日本ビジネスプレス)
ロシアとウクライナ:プーチンの計画を読み解く:JBpress(日本ビジネスプレス)
まぁ概ね「プーチンさんが機会に乗じている」というのには同意しますけども、しかしそんな事実を認めようが認めまいが、どちらにしても今のヨーロッパに対応する余裕があるかと言うとそんなことまったくないよねっていう悲しいオチ。そんなヨーロッパの中では比較的余裕のあるイギリスの両紙がまぁ上から目線での正論を言ってもなぁ感はありますけど。

 クリミアの併合とウクライナのドンバス地方への侵攻は、さまざまな疑念を払拭したはずだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相の場合、それが起きたようだ。交渉より対立を好むような政治家ではないメルケル氏は、あまりに多くの嘘をつかれ、あまりに多くの約束を破られ、気持ちが固まった。

 だが、欧州内の論争は終わっていない。ギリシャ急進左派連合(SYRIZA)政権が示したロシア政府への共感については、盛んに取り沙汰されている。

ウクライナはプーチンの作戦の一部に過ぎない:JBpress(日本ビジネスプレス)

もちろん経済的には――ヨーロッパでは仮にユーロの危機が炎上一歩手前であろうとも――圧倒的にロシアが追い込まれているわけですけども、でも政治面で言えば同じくらいギリギリなのが今のヨーロッパなんですよね。故に彼らはまともに行動することができない。
西側同盟諸国のココロの隙間を突くもの - maukitiの日記
以前の日記でも書きましたけど、まさにプーチンさんは欧州各国の同盟の隙間を突くことで彼らの混乱に乗じている。ユーロ危機を通じて盛り上がった分裂=反欧州連合機運が――それはギリシャのような緊縮財政を「押し付けられる」債務国側だけでなく金を貸した債権国側だって例外ではない――弱腰な自国政府への反発となり、そこから間接的に強力な政治家の代名詞でもあるプーチンさん=親ロシアな感情に結びついてしまっている愉快な構図。
こちらもすごく愉快な構図なので日記も書こうとも思っていますけども、だからこそ、ギリシャの脅迫である「欧州連合がどうなってもいいのか」というのはまったくのブラフではなくなっているんですよね。皮肉なことにロシアがヨーロッパの外でこうして振る舞っているからこそ、ギリシャ危機の重要性は余計に高まってしまっている。その意味で言えば、一つの未来予想としてロシアが危機を煽れば煽るほどギリシャの問題は解決の為の妥協が採りやすくなる可能性もあるかもしれない。ないかもしれない。


ともあれ、どちらにしても少なくとも現状においては、そんなプーチンさんによる軍事戦略と情報戦略の同時展開というハイブリッド戦略は、まぁ端から見てていても欧州の状況と相まることでとっても上手くいっているよなぁと感心してしまいます。まるでいつか見た風景のように、その相手同盟内に生じた(経済問題を契機にした政治的)危機に乗じることで『勢力圏』を自らに都合の良い方向へと変化させようとしているロシア。
かつてやられたことをやり返しているだけだ、というのはそれなりに正しい主張かなぁと。一連の『春』で起きたのってまぁそういうことだったわけだし。プーチンさんの代名詞でもある「20世紀最大の地政学的悲劇」を今こそ帳消しにするのだ。逆襲のプーチン


それ故にアメリカも決して他人事ではないんですが、例によって例のごとくオバマさんも内政や『イスラム国』問題やらあって、ギリシャ擁護な(それなりに真っ当な)お言葉を出すのが精一杯。多このヨーロッパ=ロシア問題は新政権まで動くことはないだろうなぁ。なのでただただ見守っているだけ。
そこにアメリカの『指導力』なんてものはない。


しかしまぁこうした風景を見ると、やはり一極構造は終わりつつある――既に終わったのだなぁとしみじみ思います。
僕は所謂『多極構造』よりも『一極構造』の方がずっとマシ(アメリカ万歳)だとは思っていますけども、しかし現実とは是非や好みの問題ではなく、既にそうではないのでしょうね。そして、こうした構造の変化するときこそ大きな事件が起きるのだと。

 こうした状況は、ある意味では、今の事態を冷戦時以上に危険なものにするかもしれない。一定の誇張だと思いたいが、ロシアのイゴーリ・イワノフ元外相は、次のようなことまで言っている。

 「政治的な対話がなく、相互の不信感が歴史的な高さに達している中、核兵器が絡むものも含む意図せぬ事故が起きる確率がいよいよ現実的になっている」

ロシアとウクライナ:プーチンの計画を読み解く:JBpress(日本ビジネスプレス)

いやぁおっそろしいお話ですよね。


かくして決意を固めるロシア、決意などないヨーロッパ、尚も休憩中のアメリカ。そして欧露関係がどうなろうとウクライナ自体の望みは叶いそうにない。
世はまさに「欧州情勢は複雑怪奇」な時代へ。


みなさんはいかがお考えでしょうか?