無邪気で傲慢な帝国(の中の人)

まるで某火星騎士のような人たち。



【イスラム国】「なぜ敵に軍事計画を教えたのか」 イラク北部モスル奪還予告を糾弾 マケイン氏 - 産経ニュース
これって結構前から問題になっているお話でもあるんですよねぇ。もちろん確信犯的に情報を漏洩をする人たちもいる一方で、それこそその情報の意味をよく理解しないまま記者たちに得意げにベラベラしゃべってしまう人たち。
特に『対テロ戦争』時代たる今では、より「口が軽く」なっていると言う人も居たりして。

中東を管轄する米中央軍の当局者は19日、モスル奪還作戦に4〜5月にも着手すると予告。参加するイラク側地上部隊の内訳にも言及した。

 マケイン氏は「有志国の詳細な作戦情報をメディアに提供したと知り、当惑するばかりだ。軍事計画を敵にわざと教えるような事態は、前例を知らない」と指摘。作戦の成功を危うくするばかりか、米軍や有志国軍のメンバーの命を危険にさらすと非難した。

【イスラム国】「なぜ敵に軍事計画を教えたのか」 イラク北部モスル奪還予告を糾弾 マケイン氏 - 産経ニュース

現実における「スパイ」なお話でしばしば指摘されるように、彼らが集める情報の大部分は公開情報から得ているわけですよ。各種新聞を基本にして公開されている情報を多面的に積み重ねることで、その裏に秘匿されているだろう秘密を推測する。


それこそ東西冷戦の頃ならばそうした事を「相手も」やっていると解っているからこそ最低限は配慮されていた機密情報の取り扱いも、しかし『9・11』以後の対テロ戦争時代になるとそれはもうユルユルになってしまっているそうで。

ジャーナリストに対する機密情報(最高機密情報も含まれる)の漏洩は、アメリカ政府高官、政治家、高級官僚、および軍幹部の間では、かなり前からめずらしいことではなかった。著者の立場から知りえた範囲では、過去10年のあいだにこのような情報漏洩は顕著に増加しており、こうした情報を最も多く入手している『ワシントン・タイムス』紙は連邦政府のかなり高いレベルに接触相手を確保していると思われる。さらに、共和党政権下でも民主党政権下でも同じように漏洩がおこなわれている点を見ると、接触相手は選挙結果とは無縁な――そして良心の呵責とも無縁な――高級官僚あるいは軍幹部であると思われる。漏洩は、件数そのものが増えているだけでなく、アメリカ国内外の政策に影響を与えようとしているというような明確な意図の下で行われたとは考えにくいケースが急増している。つまり、自分が何を知っており、どのようにしてそれを知ったか、ということを世界や敵に対してひけらかすだけの目的で行われる漏洩が増えているのである。*1

ついでに、人種差別とまでは言いませんけど相手をひたすら舐めているのか、こうして作戦の概要どころか詳細まで喋っても、どうせ正規軍ではないテロリスト――それこそ『イスラム国』なんかの――蛮族相手にはどうでもいいとか思っている過信さがその要因の一つであると、本書では述べられていたりします。
オバマ政権の深謀遠慮であるという可能性もゼロではやっぱりないのでしょうけども、これまでの政権の外交政策の混沌っぷりを見る限りあまり可能性は高くなくて上記のような無邪気で傲慢な漏洩という可能性の方があるんじゃないかと個人的には思います。


無論それ自体を否定するものではありませんけど、しかし、やっぱりこうした事例を見ると専門外の管理人による統制=シビリアンコントロールの限界というものを考えずにはいられないお話だよなぁと。
――逆説的に、こうしたカジュアルな情報漏洩が意味しているのは、そうしたシビリアンコントロールが適切に行われていることの証左でもあるのでしょうけど。実際に作戦当事者でない人たちだからこそ、真にその『情報』の持つ意味を正しく把握できていない。まぁそんな風に無邪気・得意げに語ってくれる人たちが政府高官に一杯いるからこそ、僕たちのような一般人がボブ・ウッドワード記者による興味深いアメリカ政府の内実(もちろんあれが全て100%真実だとは思いませんが)話を読めるわけでもあるんですけど。


実際問題としてアメリカの戦力としては尚も圧倒的なわけで。こうした自信を過剰に抱いてしまうのも無理はないのかもしれませんね。まず間違いなくアメリカ軍の能力は世界最強なのは事実でしょうけども、かといって、アメリカの政治家や官僚の能力までもが世界一なのかというとそんなことないはずなのに。
なので結局のところ今回のこうした作戦情報の公開という構図も、無邪気で傲慢な帝国、という身も蓋もない感じのお話なのかなぁと。


がんばれアメリカ。

*1:『帝国の傲慢』下 P121