『文明の衝突』があって欲しいと望む人たち

内憂外患なイタリアの苦悩。


イタリアとリビア:海の向こうの脅威:JBpress(日本ビジネスプレス)
ということで例の衝撃映像と言う他ない「エジプトでの21人首切り動画*1」に動揺するイタリアさんちであります。こんなことならカダフィさん殺さなければ良かったのに、という批判はまぁ正論だよねぇと。でもそれを言ったらアメリカのサダムさんの事例もまったく同様で、結局アメリカもヨーロッパも同じ穴の狢というオチにしかならないんですけど。
そんな責任所在はともかくとして、私たち日本にはかなり「距離」という心理障壁があるものの、しかしイタリアさんちはまさに海を隔てて向こう側である以上、その動揺っぷりはやはり自然な反応でもあるのでしょう。
しかし、まさにそれこそがやっぱり彼らの狙いでもあるわけだしねぇ。テロリストたちの常套手段。

 その発言だけでも、モスルにあるISのラジオ局がジェンティオローニ氏に「十字軍のイタリア」の代表者のレッテルを張るのに十分だった。

 ロベルタ・ピノッティ防衛相はこれに怯むことなく、翌日、「それ以上のこと」が何かをほのめかした。同氏は、イタリアはリビアでISを倒す連合軍を率いる用意があるとし、「我々はもう何カ月もこれについて議論してきたが、今、介入が急務になった」と述べた。

 イタリアのマッテオ・レンツィ首相は「ヒステリー」を起こさないようくぎを刺した。

イタリアとリビア:海の向こうの脅威:JBpress(日本ビジネスプレス)

やっぱりこれってイスラム過激派によるある種「典型的な」攻撃であり誘引そのものですよね。つまり、敵に十字軍のような『文明の衝突』だと認識させることで、敵を一つにまとめるだけでなく、味方をも一つに無理矢理にでも纏めようとする基本的なやり方。
その極北があの『9・11』だったわけですよ。
――何故あの時の子ブッシュさんのバカな「十字軍だ」発言が致命的な失言だったのかと言えば、それは身も蓋もなく「それこそが」ビンラディンさんたちの狙いの主要な一つでもあったわけで。西側世界との最終戦争。それを実現する為に必要なのは、その敵と味方の識別でもある。ただテロを普通にやるだけであれば、大多数の善良なイスラム教徒はついてこない。しかしそこで敵である人たちが二元論的な十字軍や善悪を持ち出してくれれば、過激派を消極的にでも支持せざるをえない空気を生み出すことができるから。
キリスト世界対イスラム世界。十字軍対反十字軍。善対悪。
だからこそ上記の通りイタリアのレンツィ首相はかなり適切にそのヒステリーを抑えようとしている。でも、ただテロリストの問題だけでなくイタリアには欧州の「最前線」国としてずっと難民は押し寄せまくっているし、ユーロは誕生以来の危機が継続中でそんな「ヒステリー」という意味ではかなり現実味のある問題なのでした。


所謂『イスラム国』問題が難しいのはこうした点にあるわけですよね。もちろんそこに欧米による無関心さがあるのは否定できませんけども、しかしただ彼らを爆撃すればいいという話でもない。このような『文明の衝突』的構図を避けるためにも父ブッシュさん時代の湾岸戦争であったような広範なイスラム世界からの支持を取り付けられるだけの外交、綱渡りのような外交努力とリーダーシップが求められているものの、しかしオバマさんにはそれをやるだけの能力あるいはやる気はまったくない。
かくして周縁部には圧力は加えても、まるで世界における真空状態・無法地帯が中東のど真ん中に現出している。


ともあれ、その意味で彼らが今回イタリアを槍玉にあげたのは、『距離』と言う意味でも、キリスト教の『シンボル(ローマ)』という意味でも、また『政治の不安定さ(過激発言が生まれやすい)』という意味でも、かなり適切な手法だよなぁと感心してしまいます。まったく無関心なアメリカ=オバマさんを残虐動画で挑発するよりも、おそらくずっと低コストで効果的ではないかと。
逆説的に言えば、先日不幸な結末に終わった日本人の人質事件のアレってやっぱり本筋ではないんですよね。悲しめば良いのか喜べばいいのか、こうした「十字軍」を煽らせる構図においてそもそも日本なんて眼中に入っていないわけですよ。むしろ対象としてはその敵味方以外の第三世界の代表としての日本に向けたメッセージである、と考える方がやはり適切なのでしょうね。


かくしてテロリストたちの目的である世界観闘争・価値闘争である『文明の衝突』の構図を生み出す母体として狙われる文明圏の最前線たるイタリア。
いやぁ内ではユーロで大騒動で、外ではこうして移民及びリビアでも燃え上がりつつある『イスラム国』の矢面に立たされることになって、まさに今のイタリアといえばザ・内憂外患という感じですよね。これら二つの内外の大問題は必ずどちらか一方で盛大にコケると必ずもう一方にも影響を与えることになってしまう可能性が高いのが、まためんどくさいお話でイタリアさんちもほんと大変そうであります。


フォルツァイタリア!
――と書くと某ベルルスコーニさんを応援してるみたいなので、がんばれイタリア、ということで一つ。