モラルというよりはモラールの問題

強制的「奉仕」の果てにやってくるもの。全体主義の失敗例として生まれる致命的なシニシズム、に似た風景。


すき家、内部情報のネット公開を禁止 直後に通達内容がツイッターで流出(1/2ページ) - 産経ニュース
裸写真投稿を受けすき家が「内部情報ツイート禁止令」 男性店員がその内容をツイート、処分へ - BIGLOBEニュース
「ワンオペ」廃止も……:「すき家」揺るがす女子高生バイトわいせつ画像“テロ” バイト集まらぬ懸念、効かぬ統制 (1/2) - ITmedia ビジネスオンライン
先週のお話ではありますけども、ちょっと面白いお話だなぁと思ったので適当に。

その文書では、「緊急連絡」とのタイトルで、店員のクルー各位に対し8日付で「従業員がすき家の画像・情報を無断投稿することは禁止です」と大きく書いてある。

公式アカウント以外のSNSなどへの投稿を禁じており、「軽い気持ちの投稿がその後の人生を狂わせかねない事態にまで発展したケースが実際に発生しています」とつづっている。一般の人たちは、すき家の店員に対し、「個人」ではなく「すき家の代表」として見ているとして、出退勤、就業中のほか、休憩中であっても「節度ある行動」をするよう求めている。

「必ず全員がこのルールを理解して日々の業務に従事してください」

こうも呼びかけ、違反投稿を見つけたら、すき家本部に連絡を、とした。最後に、本部の電話番号が書かれてあった。

裸写真投稿を受けすき家が「内部情報ツイート禁止令」 男性店員がその内容をツイート、処分へ - BIGLOBEニュース

Twitter自粛要請をした直後にそれがTwitterで流出とかものすごくギャグのようなお話。労使問題においては、やることなすこと裏目に出まくっている愉快なすき家さんち。


こうしたブラック企業の中の人たちは、しばしば、愛社精神的なモノを賛美しますけども、まぁ確かに無いよりあったほうがずっと良いのは確かであります。それさえあればより真摯に働いてくれるだろうから。
ただ、それを強制によって根付かせようとすると、ところが多くの場合で逆効果となる。
――当たり前の話ではありますが、強制された愛社精神なんてのは彼らに根付かないどころか、むしろ逆効果ですらある*1
この失敗の典型例が、ソ連などの全体主義による利己性を無くそうとした社会改革の末路だったわけで。つまり、国家が人民に事実上強制的な「奉仕」を要求した結果起きたのは、国家への致命的なシニシズムだったわけですよ。本来、両者の信頼関係によって生まれるそのような自己犠牲に繋がる愛着を求めたはずが、むしろ信頼関係が根本的に破壊された。
そんな社会集団の信頼関係の喪失が、やがて長期的に彼らの経済的劣勢=非効率さを生んだ、と言われていたりもするんですよね。


すき家バイトのボイコットや上記Twitter自粛要請なんか、上記失敗例そのままですよね。もちろんこの業務上の要請に関してはすき家側が言っていることに正当性がある。ところが問題は本社側が愛社精神を以って奴隷並に働いてくれと従業員に「労働」ではなく「奉仕」を求めまくった結果が、従業員たちの間に致命的な冷笑主義を生んでいる点にある。

 今回のわいせつ画像問題は、今年3〜4月に、関東地方の店舗で勤務していた女子高生が、店内で制服の上半身をはだけさせたり、ズボンを脱いで下半身を露出した状態の写真を自身のツイッターに複数回投稿していた。ゼンショーHDでは女子高生について「社内規定に基づいて処分した」という。8日には、警察に法的処置を相談したとしているが、抜本的な再発防止措置を講じるのは難しく「口を酸っぱく、注意喚起するしかない」と、対応の難しさに困惑している。

すき家、内部情報のネット公開を禁止 直後に通達内容がツイッターで流出(1/2ページ) - 産経ニュース

この構図を、しかし彼らはただ見ないフリをしているのか、それとも本当に解っていないのか根本的に勘違いしているよねぇと。破綻しているのはモラル(道徳)ではなく、モラール(士気)であるのに。
問題はそのアルバイトの意識の低さではなく、むしろ本社側が何を言おうが裏で冷笑されてしまう、という構図なのにね。



行き過ぎた共産主義の果てにあった失敗に、こうして行き過ぎた資本主義の果てにある失敗が同じ顔をしているのは、なんというか、ものすごく愉快なお話だよなぁと。彼らは同じように、国を愛せ店を愛せ、と強要した結果、元々最低限あったはずの信頼関係すら破壊した末路。


いやまぁ自業自得だろうと言うと身も蓋もありませんけど。

*1:一方で習慣と慣習という点では、子供の頃から行う愛国教育なんてものには、それなりに効果があったりもするのでこの辺は中々難しいお話で長くなるので割愛。