(親中国な)香港の空気は自由にする

でも実は当時ですら、都市内部といえばギルドや組合でこっちはこっちで全然自由じゃなかったんですよねぇ*1。その辺は現代中国と香港の関係にちょっと似てるかもしれないと思った日記。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44065
中国との経済統合が進む香港さんちのお話。

 少なくとも2012年時点では、中国経済ではなく、米国経済の方が香港の景気循環の浮き沈みに大きな影響を与えていた、と国際通貨基金IMF)の研究員らは言う。


 だが、時間とともに、香港経済は中国の軌道により深く引き込まれるようになっている。最も明白なのは、本土からの資金と訪問客双方の流入だ。

 香港への対内直接投資全体に占める本土の割合は、1990年代終わりの1割程度から現在の4割近くまで上昇している(図1参照)。英領バージン諸島やケイマン諸島に登記されている本土企業を加えると、その割合はさらに高くなる。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44065

まぁここで重要なのは、だからといって、政治統合までも首尾よく進むかというとそうでもないわけで。
<中国は今!>行政長官の選挙法案で揺れる香港、民主化運動...|レコードチャイナ
先日の日記でも触れた記事にありましたけど、むしろ中国マネーの大流入による成長は、必然的に勝ち組と負け組――もっと直截に言えば中国マネーの恩恵・利権に預かれた人とそうでない人を決定的に分断してしまっているんですよね。まぁ良くある構図と言えばよくある構図であります。

民主化運動は厳しい経済状況の裏返しでもある。ある邦人企業の支店長が解説する。

「マンション価格は60平方メートルで1億円。80平方メートルで2億円。100平方メートルでは3億円だ。だが、いまの香港の賃金では15年働いても、3000万円貯めるのがやっと。家を買えるのは金持ちの親のもとに生まれた者だけ。香港は二極分化し、多くの若者に不満が鬱積している」。

「香港の良心」といわれる陳方安生(アンソン・チャン)元香港政庁政務長官も若者世代の気持ちを次のように代弁する。

「若い世代は自分たちの将来に希望がもてない状況だ。追い討ちをかけるように、香港の最大の魅力である民主主義も中国に奪われようとしている。怒らない方がどうかしている」。

<中国は今!>行政長官の選挙法案で揺れる香港、民主化運動...|レコードチャイナ

若い彼らは、「民主化」というよりはその現状を一層固着化させかねない施策に反対する。まぁその気持ちは解らなくはありませんよね。親中派のみが立候補となれば、更に分断が固定化されるのはおそらくその通りでしょう。
マンサー・オルソン先生なんかが古典として述べているように、やはり利益集団は短期的にはそれが全体利益に繋がったとしても、長期的にはそれは必ず全体の効率性を悪化させるわけですよ。皮肉なお話ではありますが、戦争や革命(劇的な政権交代含む)や市場変化などの大きなイベントが無い平和で安定的な社会であればあるほど、特定の利益集団が長期間跋扈するようになる。オルソン先生は19世紀のイギリス経済の凋落を、大陸国にはなかった「平和」な安定的社会だったからこそ、と指摘しています。


その意味では行き詰った若者の絶望的な言葉として語られる「希望は戦争」というのは実はそれなりに適切な理路の願望ではあるんですよね。戦争の是非はここではさて置くとして、しかしそのような社会の平和が壊されれば、必然的に既存の利益集団も壊れることになるから。
かくして既に既存権益の側に立った香港の一部人たちが「より」安定した香港社会を望むのは理解できるし、逆に言えばそれを持たない人たちが(中国共産党が望む形での)安定社会を望まないことも理解できるよねぇと。


先日の香港の選挙をめぐる騒動は、民主化云々というよりは、こちらの要因も大きかったのではないかと思います。(中国的)普通選挙を訴えた親中国派の言う「香港の空気は自由にする」をまったく信じなかった人たち。
がんばれ香港。