20年前から変わらぬヨーロッパのユーゴスラビアに対する上から目線

進歩したヨーロッパでは二度と大量虐殺は起きない、はずだった。


ボスニア虐殺決議案、ロシアが拒否権行使で否決 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News
CNN.co.jp : スレブレニツァ虐殺20年で追悼式、群集がセルビア首相に石 - (1/2)
そういえば「あれから20年」ということでスレブニツァネタが地味に盛り上がっているそうで。まぁなんというか今なお続く民族対立――ほどではないにしろ摩擦の最前線という感じでアレなお話であります。

【7月9日 AFP】国連(UN)安全保障理事会は8日、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1995年7月に起きた「スレブレニツァ(Srebrenica)の虐殺」を「ジェノサイド(大量虐殺)」として非難する決議案を採決したが、常任理事国のロシアが拒否権を行使し否決された。

スレブレニツァの虐殺では、8000人近くのイスラム教徒の男性や少年がボスニアセルビア人部隊に殺害され、第2次世界大戦(World War II)以後に欧州で起きた最悪の虐殺事件となった。

決議案は、事件から20年の節目に合わせ、英国が提出。安保理15か国のうち、アンゴラと中国、ナイジェリア、ベネズエラが棄権し、10か国が決議案を承認した。

セルビアの大統領はロシアによる拒否権行使について「セルビアにとって素晴らしい日」と述べ歓迎した。一方、被害者家族の支援団体「スレブレニツァの母(Mothers of Srebrenica)」の代表は、「われわれの子どもたちを殺した犯罪者を支援している」とロシアを非難した。(c)AFP/Carole LANDRY

ボスニア虐殺決議案、ロシアが拒否権行使で否決 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

で、こんなタイミングで火に油を注ぐような真似をする愉快な人たち。ただでさえまだ20年しかたっていない微妙な問題なのにこんなことやるなんて、アメリカはいつものこととしても、共同提出したイギリスなんかはやっぱ迂闊と言われても仕方ないよねぇと。
一連のユーゴスラビア紛争にあれだけ関わっておいて、(少なくとも当人たちが信じる所では)コソボの戦いから600年続く恨みの積層の複雑さ、をもう忘れたのかな?
身も蓋もなく言えば――今のギリシャにも通じるような――こうした上から目線な「ユーゴスラビアセルビア)に我々が指導してやる」的な自信過剰っぷりはあの時から変わらぬ風景で愉快なお話ではあるので、やっぱりまるで成長していないヨーロッパの証左ともなっているわけですけど。そもそも、あの時だっそんな態度でスロヴェニアクロアチアの独立を(自分たちの解釈で)承認したことで見事に民族浄化という火に油を注いだわけだし*1


今回のお話は、そうした(コア)ヨーロッパたちの無邪気で無分別な上から目線の善意が今回も発揮されただけ、じゃないかと思います。
まるで成長していないよね。


まぁただバカにするのもあれなので微妙に擁護すると、特にヨーロッパの人たちが殊更にこの悲劇を強調したがる理由も解らなくはないんですよ。それだけの衝撃がスレブニツァの事件にはあったから。
そもそもナチスホロコーストの反省を戦後秩序の出発点においているヨーロッパでは、組織的な大虐殺は二度と起きるはずがない、と特に進歩的な人たちの間では信じられていたわけですよ。むしろ確信だけではなく、そうした彼らの決意こそが世界に冠たるヨーロッパの正当性を担保するモノでもあった。
ところが1991年から1995年までにバルカンでは見事にそれが再現されてしまった。強制収容所を伴うザ・民族浄化として。
――それ故に、彼らはどうしてもあの事件を例外視・特別視したい、というきもちはやっぱりあるのだろうなぁと。
幾ら端っことはいえ(いや、むしろヨーロッパの心臓だと言う人もいる)バルカンはやっぱりヨーロッパの一部であるは否定しようがないわけで。それ故にあれは(勝手な話ながら)彼ら自身の悲劇でもあるわけで。
その悲劇を例外視して自らを慰めたいからこそ、しかし彼らはこうして同じ過ちを繰り返す。再び無分別にその地で振る舞おうとする。なんて不毛なお話。まるで成長していない。



話はズレますけども、しかし同時にこうして(今回はやはりロシア側のほうが正論ではあると思いますけど)国連安保理が分裂するということ自体が、あの時から変わることのない、国連の機能不全っぷりを象徴するお話でもあるのかなと思います。
たぶん、次、おなじことが起きてもおなじような有様になるんじゃないかな。まさにシリアでもそうだったように、私たちはおそらく次もまた虐殺を止められない可能性が、悲しいことに、高い。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:これは主にドイツが主導したんですが