再び恥辱のあまり崩れ落ちる遺跡(11年ぶり2度目)

国際社会の無関心の、必然的帰結。



パルミラ神殿破壊の画像、ISが公開 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
ということで占拠による危機が報じられた辺りの日記*1でも「大仏と同じパターンになるでこれ」と書いてきたパルミラ遺跡が、案の定というべきか、爆破されてしまったそうで。

 画像はいずれも動画から抽出した静止画とみられる。爆発物が入っているとみられるたるや小さな容器を神殿内に運び込んだり、柱に設置したりする戦闘員らの姿や、神殿爆破の瞬間とみられる大規模な爆発の様子、現場に残ったがれきの山が写っている。

 神殿は23日に破壊されたとされる。爆破が報じられると、国際社会から激しい非難が巻き起こった。ユネスコのイリナ・ボコバ(Irina Bokova)事務局長は、「新たな戦争犯罪であり、シリアの人々や人類にとって大いなる損失」という見方を示した。

パルミラ神殿破壊の画像、ISが公開 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

公開された画像を見ればわかりますけども、まぁやっぱりこちらも以前書いたような*2「観客(つまりシリア外に居る私たちのことなんですけど)」を意識した見世物としてセンセーショナルに爆破しようとしている辺りホント救えないお話だよねぇと。
オリジナルであるタリバンの前例の場合は一部原理主義者たちの暴走の結果としてあの蛮行が成されたと言われていますけども、しかし今回は身も蓋もなく見世物扱いで爆破されてしまう遺跡。どちらがマシかと言われると困ってしまいますけども。


ともあれ、かといってこの事件によって各国の対シリア政策が変更されるかというと、まぁやっぱりそんなことまずありえませんよね。
パルミラ遺跡の破壊は確かに人類史に残る悲劇だが、しかしただそれだけである。
蛮行によって爆破された遺跡という意味だけでなく、国際社会の無関心という意味でも、やっぱりシリアはアフガニスタンと同じパターンを辿っているよねぇと。


そもそもアフガニスタン紛争も冷戦構造の中にあり、故に直接の米ソ対立を避けるためにその支援もかなり限定されていた面はあったわけです。しかし、より救えないお話なのは、まさにあの「バーミヤン大仏が爆破で批判された国際社会の無関心さ」の基本構造が生まれたのってそんな理由からではなくむしろ冷戦が終わったからこそ、だったんですよね。
つまり、ソ連が撤退し同時に冷戦構造が終わりつつことで、逆説的に米ソ対立の最前線であったアフガニスタンへの関心も決定的に失われていった。結局アメリカが手を引くことで無力なまま残された国連は案の定の新政権確立に失敗し、残されたのはアフガニスタン周辺国によるパワーゲームの一環としての各種勢力援助だけ。かくして大仏は恥辱のあまり崩れ落ちた。
いやぁ、まるで2015年にどこかで見えている風景そのままです。
イランとの核交渉が纏まったことで地域におけるアメリカの後退はおそらくより顕著になるだろうし、かといって国連は無力なままであり、そして周辺国は自らの国益を狙って自らに都合の良い勢力を支援する。



まるで進歩していない私たち。
あの時代には通信技術未発達の背景もあって現地ジャーナリストたちからの情報もかなり乏しかったものの、今の2015年のシリアではそこそこニュース報道が確保されているにも関わらず見事にシリアへの無関心っぷりが実現されていることを考えると、国際社会の一員たる私たちの「平和を愛する態度」というのはそれよりも更に先に行っているのかもしれません。
むしろ、私たちの(自分の)平和を愛する気持ちは進歩している。


結局10年以上続いたあのアフガニスタン内戦では、飢えを中心として死者も難民も数百万人という規模だったと言われています。まさにそんな被害を文字通り看過しておきながら大仏の破壊では一転して大きな国際ニュースとなったことで出た、あまりにも強力すぎる毒を含んだあの無敵の言葉。

「ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱の為に崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人々に対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ」

その理屈に従うならば、死者は25万人難民は400万人に届こうとしていながら放置される今のシリアにあるパルミラ遺跡だって同じく恥辱の余り崩れ落ちちゃいますよね。11年ぶり2度目。


がんばれ人類。