ギリシャと同じく「正直」になるしかないデンマーク

欧州共同体の矛盾に真っ先に晒される、経済基盤が脆弱だったギリシャと人口基盤が脆弱なデンマークの悲劇。


デンマーク「難民にとって魅力のない国」を目指して | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ということでデンマークさんちの愉快な「逆広告」であります。こうしてお願いしても、むしろ本邦で言うところの某雪国もやしのCMな感じはちょっとあるのでどこまで効果があるかというとちょっと疑問ではありますが。

 デンマークの移民・統合・住宅省は今週、難民の流入阻止を狙った広告キャンペーンを開始した。「デンマークは難民に関する規制を全面的に強化する」という内容で、レバノンで発行されている4つの新聞にアラビア語と英語で掲載された。

 広告にはさらに、新たに入国する難民向けの支援金を最大で50%削減する法案を議会で可決したこと、永住権を獲得するために必要な言語力の引き上げや、永住権取得までの待機期間を最短でも5年とする、といった条件が列挙されている。仮にデンマークでの一時的な保護が認められたとしても、最初の1年間は家族を呼び寄せることができない。

デンマーク「難民にとって魅力のない国」を目指して | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

でもまぁこうした大量の移民や難民に反発は起きるのは別に不思議じゃありませんよね。ていうか昔からずっと人びとはせいぜいNIMBY辺りで、そもそも全体として好感していた時代なんてなかった、ということもできるでしょう。欧州戦後復興の礎となった移民労働力の時代から移民に対しての不満はずっとあったわけで。それこそ「表向きは」差別が法律で禁止されていながらも、各国それぞれに一部の外国人に対して排他的偏見があることは間違いない。
だからヨーロッパの人々がまるで今になって急に彼らが手のひらを返したような言い方をするのはちょっとフェアではないかなぁと。少なくともその一部は、それまであった不満が表面化したに過ぎない部分であるはずで。


それでも、今回のデンマークのようにこんなあからさまな発言に至ることはなかった、というのは確かにその通りでしょう。実際これまではそんな不満を分散させ爆発する前に、「もう来ないで」とデンマークのような地平に至る前に回避できていたわけですよ。
――それは身も蓋もなく『国境』を閉じることによって。
アメリカなんかが特に顕著ですけども、私たちは言葉ではなくそうして押し寄せる移民難民を『国境管理』という素晴らしいやり方で、その数を制御してきた。国民の不満が大きくなりそうなときは国境(入国)管理を厳格にしてそうした数を絞ってきたし、逆にそうではないときは緩めつついい顔をする。偶に失敗することも少なくありませんが、ヨーロッパに限らず日本でもアメリカでも(移民の目標となるような)先進国はそうやって手際よく有権者の不満を逸らしつつ管理してきたんですよ。


面とむかって「もう来ないで」と言うよりも、表向きは歓迎しつつ後ろの手で国境を閉じればそれでよかった。


ところがぎっちょん、そうした素晴らしく冴えたやり方は『ヨーロッパ共同体』が完成に近づくことで封印されてしまった。俺たちの知ったこっちゃないと外縁国が流入させた難民はほとんどそのままストレートで最富裕国までやってきてしまうようになった。
だからこの移民難民受け入れをめぐる大騒動って、少し前のギリシャを引き金にしたユーロ危機とほとんど構図は一緒なんですよね。本来ならば各国それぞれで持っていた権利(通貨発行・国境管理)を統合によりほぼ失ったことで、彼らは自身の状況にあった適切なバランス調整が不可能となってしまった。
今回のデンマークだって――それこそギリシャの通貨発行と同じく――こんな反発されることが確実なぶっちゃけ宣言なんてする程に追いつめられる前に、本来であればただ国境管理を厳しくすればそれでよかったんですよ。
難民対応で「現代民主主義政治の課題」が浮上するヨーロッパ - maukitiの日記
しかし今はそれもできず、そのせいで「多数派による少数派救済の合意」も失敗し、ついには正直になるしかなくなってしまった。


でもそれは青天の霹靂なんかでなくあのユーロ危機と同じように、ヨーロッパの周辺で大きな難民発生を伴う危機が起きその懸念が現実になった、というだけでしょう。経済基盤が最も脆弱だったギリシャで前回が起こったように、今回は難民流入による影響という意味で人口基盤が最も脆弱な一つであるデンマークが犠牲となりつつある。
その意味でも、あのギリシャ政府の身も蓋もないぶっちゃけトークと、今回のデンマーク政府の身も蓋もないぶっちゃけトークって、同じ意味を持っているのだろうなぁと。どちらも本来あった調整手法を失ったことで、もう正直にぶっちゃける以外に道はなくなってしまった。
ザ・事前の予想通りに追い詰められた人たち。



勢いに任せた欧州統合の際に解決できず先送りしてきた懸案事項が現実になった、という悲しいお話。いやぁ先送りにしてきた宿題が一気にやってきたヨーロッパも大変であります。ただギリシャ辺りはざまぁとか思ってそうなのが面白いですよね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?