「中立」も楽じゃない

中立であることの副次効果。


オバマ大統領、「国境なき医師団」に謝罪 米軍の病院誤爆で 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News
混迷極まるアフガニスタン、なぜ再びタリバンの手に落ちようとしているのか | ハフポスト
ということで激おこ一直線な国境なき医師団誤爆騒動であります。まぁさすがにアメリカが直接本気で狙ったとはさすがに考えにくいので、普通にオバマさんが謝罪したように(悲しいことに)よくある『誤爆』事例だとは思いますけど。問題はアフガニスタン側がどこまで把握していたか、その上で要請されたアメリカ側が「知らないことを知っていたのか」「知っていることを知らなかった」のか、という辺りが焦点でしょうか。

 22人が死亡したこの空爆については、米軍、北大西洋条約機構NATO)、アフガン当局がそれぞれ独自に調査を進めている。一方、米軍の空爆戦争犯罪と非難しているMSFは、ジュネーブ条約(Geneva Conventions)に違反する行為だとして、国際機関による調査の必要性を強調している。

オバマ大統領、「国境なき医師団」に謝罪 米軍の病院誤爆で 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News

ともあれ、もちろん卑劣な攻撃な故のこの強い調子な非難であるわけですけども、しかし同時にここで強く出ることが「国境なき医師団」という組織にとっても重要だからこそ、という面もやっぱりあるわけで。
彼らは失われてしまった命の為だけに怒っているのではなく、むしろこれから失われるかもしれない命の為に怒っている。それは単純に誤爆抑止の為でもあるし、そしてまた彼らの「中立性」の身を証を立てる為にこそ。


ああした紛争地帯で善意の行動をするNGOな彼らの「安全」を担っているのは結局ここに尽きるわけですよ。
「自分たちは誰の味方でも、また敵でもない」
その一線こそが彼らが紛争地帯で生きていく為の最も重要な一般原則でもあるわけで。自前の武器をもたない彼らがそれを疑われてしまったらもう彼らは危険地帯で生きていけない。その紛争状況が単純な構図であればあるほど効果的ではあるものの、しかし一昔のソマリアなんかのように、無政府状態が行き過ぎると諸勢力が乱立状態になりそれも不可能になってしまうんですよね。彼らの「中立を尊重してくれ」は虚しく響くだけ。
中央アフリカ共和国:MSFの病院が襲撃受け、スタッフ3人が死亡 | 活動ニュース | 国境なき医師団日本
去年にも起きた国境なき医師団への襲撃である上記ギボラでの事例と今回の誤爆について、非難の論調が微妙に違うのは、やっぱりそうした「中立性を訴える為のポジショントーク」という要因があるのかなぁと。それこそ名もなき現地武装勢力段に対して「戦争犯罪だ!」とか言っても仕方ないしね。しかしアメリカ相手ではそうではない。訴える相手としてはこれ以上ない。
今回は再度の誤爆を避けるだけでなく、アメリカとも正しく距離を置くという宣言にもなっている。その意味で本当に「国境なき医師団の中立性」を訴える上でいい宣伝機会となっているのは皮肉なお話だなぁと。




ただこれからの国際関係において、それが難しく複雑になっていくのはこれまで「唯一超大国である米国と距離を置くポーズ」という意味しかなかったそれが、ロシア・中国やイスラム過激派への間接的支援、という意味を望むと望まざると付与されてしまう構図になりつつあるわけですよ。ただアメリカとだけ距離を置いておけばよかった時代が終わりつつある。
冷戦時代もそうだったように、もちろんそうした一極から多極均衡状態が結果として中立を維持する助けとなる場合もあるでしょう。しかし、そうした彼らの中立性が政治的利用の梃子にもなりかねない。今回も反アメリカ・反NATOの論調としてそうなるでしょう。
おそらく、少なくともアメリカ一極時代よりも彼らの中立性は尊重されるようになる一方で、彼らを(自身で望まない形で)政治的利用される機会はずっと増えるのだろうなぁと。どちらがマシか、と言われると困ってしまいますよね。


がんばれMSF。