人権でお腹が膨れるとき、お腹が膨れないとき

英国外交の真骨頂。



【習近平氏訪英】人権の前に「経済関係の発展重要だ」とキャメロン首相 ロンドンで人民元建て国債発行へ - 産経ニュース
英首相、中国と経済関係強化の意義強調 習主席は中国は人権「重視」と - BBCニュース
ということで習さん英訪問は概ね大歓迎だったそうで。「人権はどうした」的な批判が成されますけども、むしろ外交において重要なのは国益こそが先にあって、国益を実現するのであれば人権問題を論う=利用するのは厭わない、という優先順位・主従関係であるわけで。
人権じゃお腹が膨れないのだから仕方ないよね。*1

【ロンドン=内藤泰朗】英国を訪問している中国の習近平国家主席は21日、ロンドン中心の首相官邸でキャメロン首相と会談した。会談後の共同記者会見で両首脳は、金融や原子力発電などの分野で、経済関係を「新たな水準に高めていく」ことで合意したことを明らかにした。一方、記者会見で中国の人権問題について質問されたキャメロン氏は、「人権を話すには経済関係の発展が重要だ」と語り、習氏は「世界の人権問題は改善の余地がある」と述べるにとどまった。

【習近平氏訪英】人権の前に「経済関係の発展重要だ」とキャメロン首相 ロンドンで人民元建て国債発行へ - 産経ニュース

なのでまぁド正論ではあるかなぁと。


それは現在のシリアなんかを取り巻く情勢を見てもよく解るお話ですよね。アメリカにしろロシアにしろ、彼らはどちらもそうした「被害者たちを守るため」と言いながら、影響力確保=国益を追求しようとする。ぶっちゃけてしまえば、そこで苦しむシリア国民のことなんか、二の次でしかない。そこには国連憲章にあるはずの「安全を最大に、苦しみを最小に」という言葉は文字通り絵に描いた文言でしかない。
――現代国際社会の外交について。
別の日記ネタにしようと思っていたんですが、欧州難民問題もこの構図なんですよね。つまるところ、当初こそ「冬きたる」が迫る悲惨な難民たちの処遇こそ焦点だったわけですけども、今や問題は各国間の利害調整という点こそに焦点が移った現状を見ればよく解るでしょう。そこで最優先されるのは、最大多数の難民救済策ではなく、如何にして各国の利害関係を均衡させ合意できるか、という点こそ話し合われている。まぁそれはそれで実現可能な選択肢という意味では確かに現実的ではあるものの、欧州難民問題でも人権問題というのはやはり二の次になっているんですよね。
冷戦後から特に顕著になった傾向ではありますが、『人権問題』というのは目的というよりは便利な手段としての価値こそが重要となった。自らの主張に正当性を追加する為の便利な言葉として。それを言うことで国益に利するのであれば大きな声で言うし、逆に損ねるのであれば紳士らしく無視するだけ。


ということで今回の事がただ単純に「イギリスが中国に尻尾を振った」なお話というわけでもないとは思うんですよね。むしろ英国人たちは敢えて言わないことで中国に恩を売り、いい条件を引き出したんじゃないかと。それはこうした西側先進国での中国外交が中国が真っ当なプレイヤーであるとの『実績作り』でもあることを考えれば、札束で引っぱたくというだけでなく、彼らが足元を見られているのもまた事実の裏表でもあるわけで。
少なくとも今見る限りでは英中両者ともにwinwinな関係で素晴らしいのではないでしょうか。それが将来的にはどうなるかは解りませんけど。


個人的には、19世紀後半のソールズベリー時代に確立されたあの悪名高い伝統的英国外交というのは、こういう時にあっさりと現実的利益に転ぶことができる割り切りの良さだと思っているので、やっぱり今回の「敢えて黙っておいてやった」外交劇はイギリスさんちらしいお話かなぁと思ったりします。
そうした割り切りの良さ、というのはミクロな個人ならともかくマクロな国家となると、私たち日本を振り返ったりするとよく解りますけど(ついでにドイツなんかも)結構難しい振る舞いなんですよね。


がんばれ英国。

*1:もちろん例外もあって、例えば「人権保護を理由にした」経済制裁解除な主張は、まさにそれを言うことで対象国への輸入拡大を目論むことが出来たりするので、人権を言うことが国益と直結する。