『アラブの春』ならぬ『ヨーロッパの春』へ

「今こそ我々の声を聴かない権力者を『民主的に』打ち倒すのだ!」なんて。


孤立化するメルケル首相、独裁化に向かうポーランド | ハフポスト
【移民ショック】難民政策で揺れる独の連立 「受け入れ限界」各地で悲鳴(1/2ページ) - 産経ニュース
ということでヨーロッパは難民問題はひたすらセンシティブな「市民生活の安全意識」に波及しつつあって、どこもかしこも大変そうです。先日の日記でも書きましたけど、この辺の治安問題が政治的に敏感にならざるを得ないのは、扇動的政治行動ととっても親和的でおっそろしいんですよねぇ。住民たちは現実に自分に起きた被害そのものではなく、もしかしたら起きるかもしれない被害を想像して声を上げる。
ハンガリーがかなりヤバいとはずっと言われていましたけど、まさかポーランド欧州連合に対する「一線」を越える一番乗りになるなんて。次はどこでしょうね。イギリスかな?


難民問題で火が付いた欧州連合自体への不満は――まさに彼らが民主主義国家に生きている正しい証左として――『投票結果』として表面化しつつある。いやぁ欧州議会選挙を2014年に終わらせといて良かったよね。あの時ですら極右台頭という結果が出ていて騒がれていましたけど*1、今やったら確実にそれ以上(以下)の結果が出るのはおそらく間違いない。


でもこうした構図になるのは概ね理解できるでしょう。人びとの不満の声をまったく無視する「独裁者」である欧州連合指導部への抵抗戦。
――これって彼らが当初称えていた『アラブの春』ほぼそのまんまな構図なのが、ひたすら愉快で皮肉お話だと思います。
市民の声を聞かない権力者への正当な抗議行動の結果が、現状の中東世界の混乱を生み出した。まさに少し前には、ギリシャに対してユーログループが経済金融問題で無理難題を(非民主的に)押し付けて大混乱していたわけで。ギリシャ国民は、民主主義的正統性のないユーログループからの要求に、自国の投票行動でNOを突き付けようとしていた。
あの頃は所詮他人事だと笑って見ていられたのにね。
ところがぎっちょんギリシャへ向けられていた「横暴さ」は、難民問題においてほとんどそのまま他のEU加盟国にも適用されつつある。ギリシャ国民が怒ったように、そりゃ不満を抱かないはずがないでしょう。だって別にブリュッセルあるいはドイツのメルケルさんに対して、他の加盟国国民はそこまでの民主主義の正統性を「直接に」与えているわけではないのだから。
「自国のことなのに何でお前にそんな理不尽なこと言われなくちゃいけないのだ」「自分たちの事は自分たちで決めさせろ」なんて。
それはギリシャで見られたユーロプロジェクトにおける『民主主義の赤字』に対する怒りであったし、もっと言えば『アラブの春』ですら概ねそういう構図にあった。自国の運命を決定づけかねない政策に関して、政治参加できないことの怒り。あれを煽ったのだから、ヨーロッパでもそらそうなるよね。


ただ、おそらく、それでもまだ完全に欧州連合プロジェクトそのものに一挙にNOを突き付けているわけではないと思うんですよね。欧州市民はまだそこまでは絶望していない。
でも他に選択肢がない以上、欧州連合そのものに懐疑を向ける政治家たちを支持するしかない。欧州連合指導部からの理不尽な難民受け入れや国境管理という要請に対してバランスを取ろうとする為に、彼らは正しく合理的な政治行動として穏健派な統合モラトリアムではない、より極端な統合反対な極右に票を入れることで、自国政府に政治的圧力を掛けようとしている。欧州連合指導部と、そしてメルケルさんへの間接的な抑止力として。
政府へプレッシャーを掛けるために、敢えて極端・過激な政策を叫ぶ人たちを支持する。政治行動としてはやっぱり合理的と言うほかないでしょう。


かくして『ヨーロッパの春』が始まりつつある、のかもしれない。
横暴な権力者であるユーロ首脳ひいては欧州連合指導部を打ち倒すのだ。まぁ創設以来言われ続けていたのに、ここまで放置してきた欧州連合の民主主義の赤字を考えれば自業自得だとも言えますよね。
アラブの春:5年 独裁崩壊の代償 識者は見る - 毎日新聞
そんな風に独裁者に圧力を掛け退陣させたら、宗派や民族によってバラバラになってひたすらカオスになったのがポスト『アラブの春』の中東世界でもあるんですけど。ヨーロッパもかつてあった国境に沿って分裂する兆しを見せつつある。あの時同様、これも見方によってはそもそも『冬』だったのかもしれませんね。


がんばれヨーロッパ。