あの素晴らしい政治家たちに(民主主義を使って)復讐を

民主主義を逆手に取って政治的エストブリッシュメントへ痛撃を加えようとする若者たち。


サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
うーん、まぁ、そうね。ジャック・ジュリアール先生なんかが言ってる*1「民主主義なき民衆」という感じ。民主主義政治に関わる権利を正しく持ちながら、しかしその実効性について事実上有名無実化している人たちが抱く政治参加への欲求不満とその帰結。

 今回の大統領選挙を見る限り、今の若者は民主主義の失われた世代にならずにすむのかもしれない。

 若者には民主主義に対する嫌悪感が植えつけられている。だが、矛盾するようだがその嫌悪感が、ドナルド・トランプやとりわけバーニー・サンダースに若者の熱狂的支持者が集まっている理由なのではないだろうか。サンダースは民主党の指名争いのなか、45歳以下の有権者層で2対1以上の差をつけてヒラリー・クリントン国務長官をリードしている。

【参考記事】支持者は歓迎、トランプ「イスラム入国禁止」提案

 政府の無能ぶりを目にした若者たちは、現状を根本から変えてくれそうなアウトサイダーに期待している。アウトサイダー候補が支持を集めているのはひとつには、若者ならではの民主主義に対する根深い不信に訴えかける術を身につけているからだ。

サンダースを熱狂的に支持する若者たちは、民主主義を信じていない | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 一般論では「若者が政治に関心を抱き、参加するのは良い事」なのだろうが、Bernie Brosを目撃した今は、疑問を感じずにはいられない。

 妥協を許さない「オール・オア・ナッシング」の理想を貫けば、社会は機能しなくなるし、戦争を回避することもできない。ヒラリーを叩きのめして、11月の本選で共和党候補を勝たせれば、極右の最高裁判事を任命し、「女性が中絶を選ぶ権利」や「同性婚の権利」が撤回される可能性もある。その危険を訴えるLGBTや人権理事会のメンバーからの意見には、サンダースの熱狂的支持者は耳を傾けようとはしない。

サンダース旋風の裏にある異様なヒラリー・バッシング | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

民主党にしろ共和党にしろ、どちらも同じく党主流派候補がほとんど想定外の形で手痛い攻撃を受けている現状を見る限り概ね正しい指摘なのでしょう。
「党」を中心にした政治エリートと民衆との間に、越えられない壁が生まれつつある。
こうした構図は直接に民主主義政治の生死に関わるわけではないモノではないものの、しかし長期的には大きなダメージを残す問題でもあるわけで。上記リンク先でも指摘されているような金銭的ハードルの高さ等によって、最早政治家が政治特権を握る既得権益層となっていて、そこでは民衆たる人たちにとって政治家なんて別世界の人間であると感じられてしまう。
民主主義なき民衆たちと、民衆なき民主主義の代表者たち。


2008年に見たオバマさん旋風も、まさに主流派とは微妙にズレていたからこそ、そうした層から支持を受けて一気に巻き返したのが政治的大激変と言われていたわけで。
まぁ蓋を開けてみればアウトサイダーと見られていたオバマさんも概ね典型的「黒人」層とは掛け離れたエリート黒人層の一員で、ウォール街との距離や党政治など、大統領になった後も見事に典型的米国政治家像そのまんまで失望されちゃったんですけど。
かくしてオバマさんは期待されたものの、しかし(全てではないにしても)裏切られた。次こそは既存の政治家らしくない政治家を。


これは日本でもしばしば言われるお話ではありますが「老人有利な政策ばかりが実現している」というよりむしろ問題なのは「人口動態から言って、どうせ選挙行っても勝てない」と諦めてしまう構図こそ民主主義政治にとっては悪いんですよ。
そしてよりタチの悪いことにその諦めは、概ね正しい現状認識でもある。
実際に自分たちの支持する候補者が選挙で負けるなら――まぁ負けたことに陰謀を見出す愉快な人たちも稀によくいますけど――それはそれで仕方ない。しかしそれ以前の段階で、候補者選定など有権者の側に(実際にどうかは別としても)「代表を選んでいる」という充実感が無くなると、彼らの不満はどうしようもなく鬱積していく。


こうなると「私は既存政治家とは違う!」と叫ぶ政治的アウトサイダーたち――彼らの全てではないにしろ多くがポピュリストでもある――へ、これまで政治参加を拒否られてきた復讐の意味も込めて、実態以上の支持を集めてしまう土壌ができてしまう。
エリート政治家たちの独占によって民主主義を奪われた人たちが、アウトサイダーへ投票することで復讐しようとする。
だって少なくともそうすれば、自分たちの手で、政治家を選んだという実感を得ることは出来るから。


まぁその意味で言えば、現代先進民主主義国家のどこでも見られる光景ではあるんですよね。
だからこそ、エリート政治家と一般有権者が致命的に乖離することは危険と言われているのです。まぁそこでバカな衆愚が悪いのだ、とかバカなことを言うバカな人も少なくないんですけど。
政治エリートに民主主義を奪われた人たちが、民主主義を使って復讐しようとする。ここにそうした意識を「悪用」しようとする政治的手腕に長けた政治家なんかが登場すると、まぁ歴史でよくある民主主義政治の悲劇が起きてしまったりする。
がんばれ民主主義。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ポピュリズムに呑まれるフランス』P16