何故アメリカと較べて欧州のイスラム社会は孤立しがちなのか、に対する答えの一つ

果たして「クソみたいな労働規制」は一体どちらなのか。



アレックス・タバロック「労働市場の硬直性と欧州ムスリム若年層の不満」 — 経済学101
面白いお話。特にフランス及びベルギーで連続して「地元育ちの」テロを経験したヨーロッパでは、こうした移民同化問題について、本当に深刻に考えなければいけないのでしょうねぇ。

そうした状況で移民が競争できる数少ない方法の1つが,低賃金でも働くと申し出ることだ.だが,最低賃金や「あらゆる労働者に賃金以外に大きな手当を与えねばならない」という義務でそのルートがふさがれると,移民のあいだで失業と非雇用が増加し,とくに若者のあいだで不満・離反が生まれる.

アレックス・タバロック「労働市場の硬直性と欧州ムスリム若年層の不満」 — 経済学101

こうした「何故アメリカは比較的『同化』は上手くいっているのにヨーロッパではご覧の有様なのか」お話って結構前から議論されていて、その上で経済規制=特に雇用法制こそが両者を別つのではないか、って結構前から言われているんですよね。移民同化のカギは文化的現象というよりは経済規制の問題なのか。
例えば上記とほとんど同じお話が『ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学』にもあって、2005年時から言われてたりするわけで。

社会的流動性というものは、失敗する機会も暗示する。もし社会が既存の職を保護するなら、向上への意欲をもつ新参者にとっての雇用機会は乏しくなり、彼らの人生は社会の片隅で苦々しい思いをしながらおわってしまう可能性がある。こう考えると、過激な考え方を育てるのは貧困ではなく、むしろ社会政策である。*1

皮肉にもセーフティネットの乏しいアメリカこそが、競争的である故に誰でも同条件(=劣悪な)で働ける「やる気ある」移民を惹きつけ彼らは自然と社会と同化していった。しかしヨーロッパの移民たちは、公共政策からくる流動性が低いためにイスラム系住民以外の持つ職をめぐっての競争に参加すらできず、その結果社会からの孤立は加速すると説明しています。
もちろんこれには例外もあって、比較的アメリカに近い経済規制とされるイギリスで見事にテロされたりしてるんですよね。ただこの辺はそのままイギリスの件のEU脱退をめぐる国民投票の未来に影響を与えそうで、端から見ている分にはwktkします。



ということで個人的には概ね納得できるお話だとは思っていますが、仮にこれが真実だった場合不都合な真実となりかねないのは、まさにアメリカ的政策と比較してこうした欧州的雇用価値観こそが素晴らしいとヨーロッパは言い続けてきたわけですよ。
ヨーロッパ人はアメリカと違って善く働く為に、正規雇用の保護や賃金以外の手当て(=休暇等)をいっぱいとろう、なんて。
――しかしそうした保護・セーフティネットこそが同化を阻んできたのだとしたら……?
しかしそれを捨てるなんてとんでもない! という意見には(自分含む)一般に経済左派な皆さまなら反対しがたい所でしょう。それこそアメリカ的な賃金格差社会は明らかに問題視されているわけで。この構図は少なくとも移民受け入れに関して言えばこれは深刻なジレンマであり、だからこそ「仮に正しくても」おそらく欧州人たちは簡単に認めることはできないでしょうね。


がんばれヨーロッパ。

*1:P28