ブレア・ウォッチ・プロジェクトの失敗

タイトル思いついただけで満足日記。結局アメリカを見守ることに失敗したイギリス。


イラク戦争を検証し続けるイギリスと、一顧だにしない日本〜その「外交力」の致命的な差 日本が噛み締めるべき「教訓」 | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]
うーん、まぁ、そうね。日本がそうした経験に乏しい、というのはその通りでしょうね。でもまぁむしろ左右両側から前回戦争を検証なんてとんでもないと忌避してきた帰結ではあるし、同時にまたそれ(戦争について考えないこと)を平和主義と称してきた面はあるので、単純に不作為だけを責めても仕方ないとは思ったりします。
そんな日本の話はともかくとして、ブレア=イギリス外交としても面白いお話かなぁと。

そして、歴史的に見て孤立主義に陥りがちなアメリカの国民に呼びかける。

“決して再び孤立ドクトリンに引きこもらないでいただきたい。世界はそれに耐えられないのです。そして、イギリスという友人、同盟国があなた方とともにあることを理解して下さい”

当時のブッシュ政権下では、ネオコン新保守主義)が強い影響力を持っていた。彼らの外交姿勢は単独行動主義と呼ばれた。超大国アメリカの行動はどの国からも束縛されてはならず、イラク開戦では国連の承認など必要ないという姿勢だった。

ブレア首相は、イラク戦争をめぐりアメリカが国際社会から孤立することを強く懸念していた。そうなれば、世界が著しく不安定化すると考えたのだろう。

ブッシュ大統領との書簡で「何があっても行動を共にする」と訴えたのは、ブッシュ大統領を説得し、安保理決議を得るために「国連ルート」を歩ませるための約束だったのである。

イラク戦争を検証し続けるイギリスと、一顧だにしない日本〜その「外交力」の致命的な差 日本が噛み締めるべき「教訓」 | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

以前日記で書いた――かは忘れましたけど、イラク戦争について、概ねブレアさんの狙い(もちろん結果は失敗だったという前提で)としては理解できるとは個人的に思ってるんですよね。つまるところアメリカを、孤立化させない為の方策として。
実際ブレアさんがアメリカ国民に向けて「引きこもらないで」と言っているのは正しくて、一連のユーゴスラビア紛争ではクリントン政権の『得点』にはまったくならなかったわけですよ。基本的にはほぼ成功に終わったにもかかわらず、しかし国内政治としてはアメリカ国民はそれをまったく褒めてくれなかった。デイビッド・ハルバースタム先生なんかは、この軍事介入を冷戦後のアメリカの行く先にとって重要な問題を提示していると述べているんですよね

彼らは冷戦後世界に直面するきわめて重要な問題に取り組んだのだ。果たしてアメリカの軍事力をどのように使うべきなのか? そしてアメリカには自国領土以外にも守るべきものがあるのか?*1

実際、その後のシリアやリビアでの騒動、そしてトランプさんの登場によって大混乱している大統領選を見れば、ブレアさんそしてハルバースタム先生が述べた懸念は正鵠を射た最初の一歩であり、今も尚続く大問題であるわけですよ。
結局ヨーロッパの軍事力ではアメリカが居なければ実質何もできず、その上で、アメリカは一体どこまで軍事介入をするべきなのか? これは単純にブレアさんの慧眼というよりは、むしろ冷戦後初めてNATOとして行動が問われた一連のユーゴスラビアでのNATO空爆から得られた教訓で、その立役者の一人だった彼としては自明の論理でもあったのでしょう。
――あの時も冷戦終わった直後に、腑抜けまくっていたアメリカをどうやって(だまくらかして)動かすかが問題だった。
そりゃブレアさんもアメリカに向けてあの大成功の夢をもう一度とばかりに人道的介入を叫んでしまいますよね。まぁそんなブレアさんの二度目のプロジェクトは失敗するんですけど。
ちなみにここで皮肉で面白いのは、ユーゴスラビアでの一連の空爆アメリカがまた別に得た教訓というのは、ヨーロッパのいう人道的介入に付き合うと軍事的に不合理なやり方をせざるを得なくなる、というモノでもあったりするんですよね。もちろんそれだけではないにしろ、イラク戦争で国際主義を軽視した理由の一つとして。


こうした、嫌々ながらのユーゴスラビア空爆から、アメリカが単独行動主義的に突っ走ったイラク戦争、そして何もかも放り投げるシリアへ、というパターンというのは歴史の教科書に載る流れとなるのかなぁと。
そのアメリカの行動三段変化のどれにも深く関わっていたイギリスは、やはりアメリカと『特別な関係』にあったと言えるのでしょうね。


がんばれ英米同盟。

*1:『静かなる戦争』下 P417