自由貿易やめますか? 再配分しますか?

自由貿易が人を殺すのではない、人の無策が人を殺すのだ。



【米政権交代】就任初日にTPP離脱通知 トランプ次期米大統領 - BBCニュース
まさかこの点をトランプさんが突っ走り宣言するとは思わなかった感じ。
APEC「保護主義に対抗」首脳宣言採択し閉幕 | NHKニュース
安倍さんも間が悪いよね。でも国内的にこの論点は正直、(今回のトランプ旋風的に言えば)従来の主流メディアとの相性が良くない=反政権言説に繋げにくいのであんまり盛り上がらないだろうなぁと。総出で保護主義バンザイとか言い出したらそれはそれで怖い。まぁEUのそれと同じくTPPだって保護主義的性質もあったりするんですけど。


ともあれ、自由貿易の名の下に高度成長した日本人だし、ついでに一応は元学部生ではあるので、もちろん『自由貿易』がまったくマイナスしかないと言うつもりは――そういう人はネットでも結構居て温かい気持ちにはなります――ありませんが、

首脳宣言では、世界で保護主義的な風潮が広がりを見せていることを踏まえて、「あらゆる形態の保護主義に対抗するとの公約を再確認する」としたうえで、「貿易、投資および開かれた市場の恩恵が幅広く行き渡ることを確たるものにするため、社会のあらゆる部門に働きかける必要性を認識している」としています。

APEC「保護主義に対抗」首脳宣言採択し閉幕 | NHKニュース

それでも自由貿易が完全無欠なのかというと、やっぱりそうではないわけで。まさにその事が如実に出たのがつい最近私たちが面白おかしく眺めていた、社会下層からの反抗である「ブリグジット」であり「トランプ旋風」でもあるのでしょう。


これを説明するのは簡単で、これって自由貿易の基本的な故に本質的な性質、あるいは欠陥なんですよね。つまるところ自由貿易は『社会全体の富』を増加させるが、その先進国内部では私たち労働者としての価値が「徐々に」下がっていく。当然の帰結として、海外の安い労働者に負ける先進国の私たち。
この「徐々に」というのが重要であり、おっそろしい部分なんだと思うんですよ。初めはほんとうに単純な仕事を奪うだけだったモノが、そのラインは徐々に上がっていく。急激な変化であれば気付くはずが、しかし下の弱者たちから静かに呑みこまれていくので、それが自分の足元にまで来ているとは中々気付かない。自由貿易こわい。
――そして、いつしか閾値を超えた瞬間、それは社会表層に怒りとして出てくる。
こうした本質的欠陥を避けるためにこそ、自由貿易には並列して政府による再配分政策が重要なんですが、尚も自由貿易の恩恵に預かる労働者として「強い」人たちや、あるいは物価安という恩恵を受けつつも労働価値の逓減を無視できる年金生活者なんかのリタイアした老人たちの政治的な声が大きいとその声は相変わらず無視され続けることになる。
自由貿易が産む社会分断。
しかし、別に庇うつもりはありませんが、不安定な雇用と共に生きる人たちに向けた上手い具合の再配分政策と一言で言っても結構難しいしね。最も単純なのは公共工事しまくって雇用確保することでしょうけど、じゃあそれをやれば上手くいくかというと絶対にそんなことも言えない。誰か今すぐ人類に叡智を授けてはくれないものか。
その意味では、自由貿易って未だ人類の手に余るモノの一つかもしれない。


私たち日本が尚もそうした「怒り」を持つに至っていないのは、単純に上記政治的声の大きさという問題があり、もう一つ欧米先進国に比べて日本における最強の『障壁』である日本語がある面も大きいのでしょう。
少なくともそれができるだけで日本における労働力としての価値を担保できるから。清掃員からコンビニアルバイトそして介護まで、まぁ結構そうした安い労働力ってもうかなり私たちの身近な所まで足音が聞こえつつありますけど。


自由貿易をやめますか?
再配分しますか?


こうして見ると、政治家だけでなく有権者にも広く要求される政治的叡智が必要ないだけ前者の方が簡単であり魅力的な回答に見えるのは否定できない。もしかしたら最初に書いたTPP脱退を宣言したトランプさんって意外でもなんでもなくて、むしろ概ね適切な回答に辿りついているのかもね。


みなさんはいかがお考えでしょうか?