ポピュラリズムの「次なる」体現者

修辞疑問という技巧の一つの極致、でもあるかもしれない。


真実を語るより問いかける。ドナルド・トランプの発言が問うことの意味を(さらにすべての意味)をどのように歪めたか by François Côté-Vaillancourt – 道草
うーん、まぁ、そうね。トランプさんの登場が「歪んでしまった」ことのエポックメイキングな事態かというと、別にそうは思わないかなぁと。ていうか結構もう何人も通り過ぎた道ですよね。もちろん最大の民主主義国家であるアメリカで成功させている、という点ではやはり特筆すべきでしょうけど。

ドナルド・トランプに長年スポットライトが当たり続けたことで、私たちは彼の言説および真実に対するアプローチを嫌というほど学ばされてきた。大統領という地位からものを言う立場になった今、彼の事実を無視しようとする意思にはますます多くの人が驚いている。しかし彼の話法にはあまり注目されていない側面がある。彼は「立場を明確にする」よりも「問いかける」ことを好むのだ。

真実を語るより問いかける。ドナルド・トランプの発言が問うことの意味を(さらにすべての意味)をどのように歪めたか by François Côté-Vaillancourt – 道草

この辺は、以前も書いた『ポピュラリズム』についての考え方が参考になるかなと。サルコジさんや橋下さんが通った(概ね成功した)政治手法について。
ポピュラリストからポピュリストへと堕ちた橋下さん - maukitiの日記
賢しい政治家による「〇〇には問題があると思わないか?」という問い掛けの意味。

さて、実際に政治権力を握った上で次々と改革を取り組む姿勢をアピールする、というのは現代の政治家――特に大きな大衆支持の流行を作り出すという意味で「優秀な」政治家たちに共通して見られる手法であるんですよね。ブレアさん、サルコジさん、ベルルスコーニさん等々、あるいは私たち日本では小泉さんのやり方も近い所があるかもしれません。橋下さんも、意識しているのか無意識なのかは解りませんが、こうした政治家たちの系譜に連なる一人ではあるのでしょう。

――ここで重要なのは、その人気の源泉となるのが実際に「改革を成し遂げる」ことではないのです。

むしろ、彼らは自ら問題を設定し「私はその問題解決の為に邁進する!」と支持者たちにアピールし続ける態度こそが支持される要因なのです。次々と問題点を挙げ、自らがその論争の主導権を握ることで彼らは有権者の支持を獲得する。それは実際、ポピュリストとは微妙に違う存在であります。現実に権力がないから好き勝手なことを言うのではなくて、彼らはむしろ権力を握っているからこそ、自ら話題を選び、その後の振る舞いに政治的アピールを込めることが出来る。

ポピュラリストからポピュリストへと堕ちた橋下さん - maukitiの日記

こうした『問い掛け』という手法が政治において有用なのは、議論争点・政治的課題が何であるか自分で主導することができる、ということに尽きるわけですよ。何を話したいかはオレが決める。会見よりtwitterでの呟きを重視してきたように、これまでのトランプさんの言動を考えるとまぁ確かにその通りだと頷くしかない。
現在起きているように、メディアの人たちが良くも悪くもトランプさんの戦略に乗る羽目になっているのは、彼の言うことを無視できないから。そして何故無視できないかというと、身も蓋もなく彼が現実の米国大統領であるからでしょう。
まんまとトランプさんのやり方に利用されているメディアの人たち。
ということで今になって急に「問い掛ける意味」が歪められたというよりは、むしろ現代民主主義政治における「『実際の権力者が』問い掛ける意味」というのはトランプさんが登場以前から政治家のテクニックの一つとしてあって、むしろ既に成功戦略の一つとして挙げられている、というのは覚えておくべきじゃないかなぁと。


でもこの構図が殊更に効きまくっているのは、アメリカで主流言説を担ってきた人たちの半ば自業自得なんですよね。
トランプさんの選挙結果自体がこれ以上ないほどに証明しているように「現実に存在しているのに無視されてきた人たち」というのは、実際にどう言い繕おうと真実であったわけですよ。勝つはずではなかったトランプ候補を支持した人たち=オルタナティブ・ファクトが、ほんとうに存在してしまった。まずこのギャップという大前提があるからこそ、トランプさんの(虚偽混じりの)節操のない問題提起は、ある種の魔力のような説得力を持つに至っているわけだから。
かくしてトランプさんのポピュラリズムな手法は、これまでにあった英仏日にあった時と同じかそれ以上に、アメリカでは更に勢いづいている。現状ではトランプさんの瑕疵(確かにそれ自体は正当ではある)を責めるのに必死な人たちですけども、その前提条件を省みない限りそうそう効果は薄れないのではないかと思います。


トランプさんの手によってまたしても証明された、現代民主主義政治における『ポピュラリズム』の効果について。
さて、次はどこで繰り返されてしまうのでしょうね?