アメリカ前大統領が辿った道を往く人たち

スーチーの誤算。


【ロヒンギャ危機】集団虐殺でスーチー氏は裁かれるか? - BBCニュース
U2ボノ氏、スー・チー氏は「辞任を」 ロヒンギャ問題で姿勢転換 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ということでスーチーさんついての不満が高まっているそうで。ここで面白いのは、ミャンマーという国と彼女をどのように見るか、というポジションによってその不満が、問題が難題過ぎるゆえの「無力さ」なのか、彼女自身の能力の「無能さ」なのか、それとも出来るのにやらない「無関心さ」なのか、という辺りで分かれている点かなぁと。

【12月29日 AFP】ミャンマーイスラム少数民族ロヒンギャ(Rohingya)が迫害を受けているとされる問題で、アイルランドのロックバンド「U2」のボーカル、ボノ(Bono)氏は、ミャンマーアウン・サン・スー・チーAung San Suu Kyi)国家顧問は辞任すべきとの見解を示した。ボノ氏は自宅軟禁下にあった当時のスー・チー氏の支持者として知られていた。

 ボノ氏は、米情報誌ローリング・ストーン(Rolling Stone)最新号に掲載された同誌創刊者のジャン・ウェナー(Jann Wenner)氏とのインタビューで、ロヒンギャをめぐる状況を考えると「吐き気がする」と表明。

「あらゆる証拠が示していることを信じられず、本当に気分が悪くなった。だが、民族浄化は実際に起きている。それを知っている彼女(スー・チー氏)は退陣しなければいけない」と語った。

 また、スー・チー氏は辞任すべきかをあらためて問われると、「最低でも、もっと意見を発信すべきだ。それで人々が聞く耳を持たなければ、辞任すべきだ」と語った。

U2ボノ氏、スー・チー氏は「辞任を」 ロヒンギャ問題で姿勢転換 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

この人は最後の、スーチーさんは「民族浄化を止めることができるはず」的なポジションに居ますけども、そもそも意思の有無と能力の有無、そして実際にロヒンギャ問題が解決可能かどうかは別問題でしょう。
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もちろん実際にはどうなのかという点については想像するしかないワケではありますが、国内政治としてそもそもスーチーさんには「止めることができない」問題だったという意見は、スーチーさん軟禁時代から既に言われていたお話でもあるわけで。民族対立が収まりきっていないところに民主主義が出てくると戦争になる、なんて。。


皮肉なのは、こうして欧米メディアを中心としたスーチーさんの不作為への批判の声を大きくあげるリベラルな人たちと、スーチーさんを「民主化の母」として期待しとにもかくにもミャンマーに圧力を掛け政権交代を実現させた人たちが、かなりの面で重なっている点でしょう。


就任直後から言われ続け結局もう何年もロヒンギャ問題を放置し悪貨させてきたスーチーさんをの『不作為』への批判。それ自体はとっても正当な行為ではあるんですが、一方でそんな彼女の権力奪取に、まさに言っている当人たちが手を貸したという背景があるわけで。
彼ら彼女らは「自分たちで」スーチーさんを持ち上げてきた――ノーベル平和賞まであげた*1――という意識がある。だからこそ逆説的に現状ある彼女の(見て見ぬフリをしていたのか、本当に気付かなかったのか)無能さが露わになることに、大多数の日本の私たちのようなただの傍観者であった人たちよりもずっと敏感になっている構図。
騙されたのか? 
それとも単にひたすら見る目がなかっただけなのか?
その意味で言えば、ボノさんのこの「辞任すべきだ」というのは、単純に正義感というだけでなく、悔恨の言葉という面も考慮すべきなのだろうなぁと。故に彼らはあそこまで必死になっている。
良かれと思ってやったはずの政権交代が失敗した構図としては、どっかのアメリカ前大統領の正当化の言説と似たような感じだよね。
「こんなはずではなかったのだ!」






一方で見事に無関心っぷりを発揮している日本の有権者がマトモかというと、そうでもないのが国際関係におけるこのミャンマー問題でもあります。上記で書いてきたようにかなりのポジショントークではあるもののそれでも深刻な人権侵害で『民族浄化』と言われ続けていても、スモーやらの話に夢中で、ミャンマーロヒンギャの話なんてまったく出てこないし、せいぜい普段から少ない国際ニュースの更にその一コマでしかない。ぶっちゃけ国際ニュースとしては日韓合意かトランプパワーでイスラエル首都認定問題の方が盛り上がってた感すらある。
同じアジアの民()
ロヒンギャ迫害非難決議を採択、国連委 日本は棄権  :日本経済新聞
そうした国内有権者の声の大多数が無関心であるならば、その帰結は冷徹なパワーゲームな外交政策に繋がるのも当然だよね。如何にして新生ミャンマーに影響力を残すか?
実際にミャンマーは中国勢力圏とのボーダーそのものでもあるわけで。それこそ欧米メディアがスーチーさんを持ち上げてきた理由の一部でもある。



(自分たちの勝手な楽観論から)期待したはずの政権交代の効果が出ないことに苛立ちを強める人たちと、もう一方では無関心さ故にパワーゲームに走る国家たち。いやぁ右も左もアレなのが地獄感あるよね。国際関係の歴史なんてそんなモノと言ってしまうとアレですけど。
がんばれミャンマー