国民国家リターンズ

こうなったらイチかバチかで徴兵制だ!


徴兵制復活へ 仏大統領表明 18〜21歳の男女対象 | NHKニュース
フランスで『徴兵制』が復活の兆し、だそうで。

この中で、「すべての国民を対象にした徴兵制度に向けて取り組み、実現させる」と述べ、2002年に廃止となった徴兵制度を復活させる考えを示しました。

マクロン大統領は、去年の大統領選挙で、相次ぐテロの脅威に備えるためや国民の団結を強めるためだとして18歳から21歳の男女に対し、軍による訓練を中心とした1か月間の兵役の義務化を公約に掲げていました。

今後、この公約に沿った形で導入を目指すと見られますが、徴兵制度の復活には、その効果を疑問視する声や多額の費用がかかるという批判もあり、実現に向けて曲折も予想されます。

徴兵制復活へ 仏大統領表明 18〜21歳の男女対象 | NHKニュース

本邦でもアレコレ言われていますけども、単純に軍事的な意味合いというよりはやっぱりマクロンさん本人もうっすら口にしているように社会統合が本題だよねぇ。『国民国家』のつくりかたの基本中の基本。アーネスト・ゲルナーベネディクト・アンダーソン先生ふたたび。その先駆者でもあったフランスがふたたび同じ手法に辿りつきつつあるのはちょっと面白い構図ではあります。
国家統合の為に本来まったく背景が違う人たちを社会的結束によって結び付けるなにか。
想像された共同体である『国民国家』を生んだ、雑多な人びとを必然的に寄り合わせる、普通教育(共通言語)や鉄道に産業化、そして徴兵軍。



リベラルな多文化主義を推し進めてきたフランス。そのメリットはあったものの、デメリットとして移民たちの社会統合へ誘うベクトルも失ってしまった。深謀遠慮というよりは場当たり的な対応感は否めないものの、過去の手法に頼ろうとしている。それはいつかきたナショナリズムへの道でもあるし、日本風しぐさで言うところの「軍靴の足音」ではあります。でもそれ以外に何か新しい方法があるのかというとまぁ途方に暮れるしかない以上、そりゃ過去に上手くいった(そして陳腐化した)手法に頼るしかないよね。
面白いのはこうした手法が逆説的に証明している、技術が進むことで実現できた国民国家が、更に進むとこうして社会分断が進むことになった構図かなぁと。既に各所で語られているように*1自由に交流可能だったはずのSNSなんかが更なる分断に一役買っている、といった点とか。
だからこそ、統合のためにむしろ古い手法を持ち出す羽目になっているフランス。
そうした平等な軍隊って私たち日本含む現代先進国社会で最重要の課題の一つでもある「公平性」への解答の一つともなりうるんですよね。不平等そのものが悪いというよりは、それがやがて発言権と公民権の不平等にまで至ることで、ネタではなく民主主義が死んでいってしまうから。


もちろん例外は常にありますけども、一般に『軍隊』って日常社会のしがらみから離れたある種「平等の扱い」の極致でもあるわけで。富める者も貧しき者も、誰もが権利を越えた義務として、共通体験として同じ釜のメシを食うことで一つの経験をしやがて文化を獲得していく。
やはりそれは幻想であり想像された共同体でしかないものの、しかし何もないまま分断されていくよりはずっとマシでしょう。住居も学校も仕事も文化も宗教も肌の色も言語も違う人たちとどうやって同じ国で同じ国民として生きていけばいいのか? これまでのように「これこそ多文化社会だ!」と見て見ぬフリを続けることができればそれでよかったかもしれない。でももう無関心のフリを決め込んだまま我慢できる臨界点は越えてしまった。
このままでは相互理解が不可能なほどの異邦人な集団が国家内に生まれてしまいかねない。
――そうなっていけば、現在欧州連合が直面しているような、知らない人たちへ自らの税金を投入することへの怒りのような社会分断をどうすればいいの?


フランスはこの国家統合に悩む21世紀という時代にふたたび新たな国民国家像を提示できるのか。
みなさんはいかがお考えでしょうか?