みんなも自分の好きな(都合のいい)人権問題にコミットしような!

これも悪しき相対主義の一端かもしれない。


「殺害の規模の大きさ、ガザ地区に衝撃」 BBC記者が現地取材 - BBCニュース
ガザ地区でイスラエル軍発砲、パレスチナ人55人死亡 米大使館移転抗議で - BBCニュース
ということでガザでまた大騒動だそうで。テロと軍事攻撃の不毛な戦い。もう何十年も、いつまで経っても進歩がないというか。
究極的に双方が望んでいる、イスラエル人が出ていくにしても、パレスチナ人が出ていくにしても、それってつまり広義の『民族浄化』他ならない。それを避けるためには共存していくしかないものの、動画でも言及されているように「同じ土地に居るからこそ争い続ける」というのはまぁ普段私たちが言っているはずの身も蓋もない共生の限界を見ているようで悲しくなるお話ではあります。
あるいは当然の帰結とお馴染みの悲観論に与するべきか。

国連のザイド・ラアド・アル・フセイン人権高等弁務官は、「イスラエルの発砲で何十人が死亡し、数百人が負傷したのは、衝撃的だ」と、「甚だしい人権侵害」を非難した。

ガザ地区でイスラエル軍発砲、パレスチナ人55人死亡 米大使館移転抗議で - BBCニュース

しかし――もちろん血が流れたという意味で疑いようなく悲劇的ではあるものの――被害の大きさという意味でも、現代世界において殊更にユニークな事例かというと、隣のシリアを見ればそれこそ悲しいことにそうではないでしょう。
それでもこうして「イスラエルの横暴」という構図が盛り上がるのは、反ユダヤが好きな人たち、あるいはアメリカの横暴の一端ということもあって、昔から多くのファンやウォッチャーを獲得しているお話ではありますよね。



いや、別にシリアを放っておいてこのニュースが盛り上がることが悪いとか良いとか言いたいわけじゃないんですよ。どちらにしても、リソースに限界のある私たちにとってすべての問題にコミットすることは不可能であるから。
何が重大で、何が重大でない人権侵害なのか、決めることができるのか? と聞かれるとまぁ不可能でしょう。あるいはまったく逆に全て公平に関心を持つことも不可能である。となると多かれ少なかれ恣意的にそれを選ぶしかない。




「右派の指導者による抑圧は非難しても、共産党政権の悪事には言葉を濁す」カーター政権や、あるいは逆に「共産党政権の圧政は非難するが、アメリカの同盟国の抑圧的行動に関しては沈黙した」レーガン政権の比較ように、一国の指導者としてはそういう態度は議論され研究していくべきかもしれない。もしくは安全保障上の問題だと開き直ることもできる。
我々は同盟国の人権侵害であればこそ非難すべきなのか? それとも同盟国の場合は(地政学上の視点から)看過すべきなのか?
我々は敵対国の人権侵害であればこそ非難すべきなのか? それとも敵対国の場合は(余計ないざこざを招かない為に)看過すべきなのか?
正直これは国際関係における永遠に続くテーマでしょう。


どちらにせよ私たちミクロな個人としては、上記のようなジレンマもなく、ひたすら「自分に都合のいい」人権問題を取り上げていればいい。世界には悲しいことに悲劇が溢れており、そしてその確固たる優先順位も見当たらない。
ということは自分自身のリベラルな価値観から、何かしら取捨選択して言及していくしかない。
シリアを無視しつつもスーダン内戦の国際社会の無関与を責めてもいいし、スーダンを無視しつつもイスラエルの横暴を責めてもいいし、イスラエルの横暴を無視しつつもロヒンギャに心を痛めてもいいし、ロヒンギャを無視しながら中国の人権侵害を責めてもいいし、中国を無視しつつ日本の戦後補償を責めてもいいし、日本を無視しつつ韓国内にある人権侵害を責めてもいいし、韓国のそれを無視しつつ『現代版慰安婦』とされる脱北女性の人権に言及したっていい。



自分の嗜好にある、政治的イデオロギーに沿う、自分の属する社会の、都合のいい「人権侵害」を選んで非難しよう!
なにせ人権は重要だからね。

国際社会の反応
国際社会の反応は、激しく相反している。

ホワイトハウスのラージ・シャー報道官は、「大勢が悲劇的に死亡した責任のすべては、ハマスにある。(中略)ハマスは意図的に、シニカルに挑発し、この反応を引き出している」とハマスを批判した。米政府はハマスをテロ組織に指定している。

クウェートは、国連安全保障理事会の緊急会合を要請し、国連による独自調査を求める安保理声明の草案を用意した。文中に「激怒と悲しみ」の表現を盛り込んでいたが、米国が採決を阻止した。

欧州連合EU)のフレデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表と英国は、当事者に抑制を求めた。

ドイツは、イスラエル自衛権を認めつつ、自衛権の行使は「相応」なものであるべきだと指摘した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、抗議行動の参加者にイスラエル軍が暴力を行使したことを非難した。

トルコは、イスラエルによる「おぞましい虐殺」の責任の一端は米国にあると批判し、米国とイスラエル両国から自国大使を召還すると明らかにした。

南アフリカも、在イスラエル大使を召還し、「イスラエルによる最新の攻撃」が「無差別で深刻な内容」だと非難した。

ガザ地区でイスラエル軍発砲、パレスチナ人55人死亡 米大使館移転抗議で - BBCニュース

かくして恣意的に用いられることで摩耗していく「人権侵害」という批判。
……しかし私たちは、まさに自身と同じように、自国にとって「都合のいい」人権侵害のみあからさまに言及し批判している現在の国家たちを責めることはできるだろうか。
私たち自身ですらそうしているのに?



みなさんはいかがお考えでしょうか?