欧州離脱事情は複雑怪奇

選択肢が多すぎる故の悲劇。


英国民、メイ首相のEU離脱案に大半が反対 前外相への支持も=調査 | ロイター
メイさんのイギリス離脱案が不評だそうで。

英紙サンデー・タイムズの委託でユーガブが7月19、20日に実施した調査によると、メイ首相が離脱交渉を上手く進めているとした回答者は16%にとどまり、34%は今月辞任したジョンソン前外相のほうが上手く対応すると答えた。

新たな国民投票が実施された場合、メイ政権が提示した離脱方針を支持するとした回答者は10人に1人にとどまり、半数以上が同案は英国とって良くないと答えた。

また、38%が離脱にコミットする新たな右派政党に投票すると回答し、4分の1近くが反移民を掲げる既存の極右政党を支持すると答えた。

英国民、メイ首相のEU離脱案に大半が反対 前外相への支持も=調査 | ロイター

といってもまぁ仕方ない面はありますよね。一言に離脱といってもその後に生まれるEUとの「距離感」という意味では、それはもう遠近のグラデーションが広がっているわけだから。EU加盟したままとそれ以外、という構図では白か黒かという次元で語れるものの、実際には離脱すればその後に無限に等しいほどの選択肢が存在する。それこそEU外にいながらある程度の自由貿易関係というイギリスが参考にすべき前例ですら、ノルウェーやスイスにトルコ、と様々なバリエーションがあるわけで。
一口に離脱派といってもその強弱では多くの派閥が存在している。
だからどんな選択肢を選んでもどこかから不満が出るのほとんど確実なんですよね。


かくして当然の帰結として「総論」という意味では離脱に賛成できても、その後の「各論」という意味では合意できないイギリスの中の人たち。
イギリスはどの程度の距離感を保つべきなのか? という難題。


メイさんのポジショントークとしては既存モデルは参考にしないと述べていた*1し、イギリスとしては良いとこどりできればもちろんベストではあるものの、そうはEU問屋がおろさない。上記EU非加盟国家たちのバリエーションの実例が示しているように、分担予算負担から規則受け入れのように大抵はそのメリットと(彼らが忌避するところの)主権喪失はトレードオフでもある。より自由度の高いEU市場へのアクセスとは、拘束力の強いEU側ルールをより多く受け入れることと同義でもある。
であればこそかつてノルウェーの首相は、EU外への国家へ一方的にルールを押し付ける彼らの関係(EU外である故に彼らには発言権はなくファックスで通告されるのみ)をして『ファックスによる統治』『ファックス型民主主義』なんて揶揄していたんですよね。
つまり、中途半端にEUと距離をとる=ある程度の関係性を維持することは、ほとんどそのまま主権喪失という意味ではEU内に留まるよりも容認できない結果を招くことにもなりかねない。



ここでイギリス=メイさんのジレンマの強化となりつつある新たな要因は、現在進行形で進むアメリカ=トランプさんの暴走によってその最終安全装置でもあったWTOの役割が徐々に信用できなくなっているという点でしょう。
最もハードなブリグジット=EUの単一市場を諦める代わりにEUからの制約を全て捨てる選択肢を選んだところで、ヨーロッパ外の国たちと――例えば私たち日本やアメリカと同等の――同じ扱いをされることでしかないわけですよ。この点をしてハードブリグジット支持派の主張は一理ある。(FTAを結ぶ前の)日本やアメリカが対ヨーロッパ貿易でそこまで致命的な不利益を被っていないのだからイギリスだって同じだろう、と。
もしそこで仮にそれ以上の不当な扱いをされるならば、それこそWTOに訴えればいいわけで。
――ところがぎっちょん現在の貿易戦争に歯止めが掛けられていないことで、WTOの信頼性は地に落ちつつある。


ただでさえ様々なレベルの離脱派の合意を取り付けるのが難しいのに、更には離脱正当化の一つでもあった自由貿易の安全装置を失いつつある現代世界。
いやあ肝心の状況が激変しているのだからまぁ迷走するのも無理はないよね。


がんばれイギリス。