デヴィッド・リカードの名に誓い、すべての不義に鉄槌を――下せなかった時に起こること

そんなあなたに拒否権システム。


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ということでザ・貿易戦争な構図は収まりそうにないそうで。

米国政府はこれまでに、WTOで紛争解決の審理に当たる上級委員の再任を拒否した。これにより、WTOの紛争解決機能がまひする可能性がある。

ロバート・ライトハイザー米通商代表も、WTOが米国の主権を妨害していると批判してきた。

トランプ氏は大統領就任以前から、不公平な貿易について怒りをあらわにしていた。

トランプ大統領は昨年、米フォックス・ニュースに対し、「WTOは米国以外の全員に利益を与えるために設立された(中略)米国はWTOでのほとんど全ての訴訟で負けている」と話した。

米国はここ数カ月、複数国との貿易をめぐり、激しい応酬を繰り広げている。

最も注目が集まっているのは中国との争いで、世界の二大経済大国が国際的影響力をめぐりしのぎを削っている。

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一体誰がこの争いを止めるのか、と聞かれるとまあ私たちには途方に暮れるしかない。ここで世界的な貿易戦争を再来を防ぐことを目的に生まれたはずの我らがWTOも見事に大国間の利害調整に失敗している。
――だけならまだマシで、両国の争いのは必然的にそのWTOの機能を蝕み、やがてそれは存在意義そのものを蝕むことになる現状。いやあ国際機関・条約の無力化のテンプレを見ているようですよね。
大国間の摩擦が機能不全を生み、機能不全が存在意義への疑念を生む。


先日の日記でも少し言及しましたけど、まさにこうした事態を避けるためにこそ、私たち多くの日本人も讃える国際連合の頂点にある安全保障理事会では『拒否権』システムを採用しているわけでしょう。拒否権があるからこそ、国連は自身の手に余る問題=大国が考える重要な対立から無関係でいられる。という大義名分を得ることができる。もしこれが無かったら、ただただ国連が名ばかりの国際的な問題を解決できない無力さ無能さ、だけが残ることになってしまう。


うんうん、それもまたキョヒケンがあるからしかたないよね!
――という逃げ道がWTOにはない。
国連ですら不可能であるのに、世界に冠たる一位二位の大国の争いを彼ら――つまりそれはそれ米中以外の私たちことでもある――が止められるはずもなく。
WTOの苦境は、国連が拒否権システムを盾に関わるのを回避しているような超大国間の利害調整を「自分がしようとした」点にあると言うしかない。しかしそれができないのであればそもそもWTOの存在意義などない。


なぜWTOが必要なのか - SWI swissinfo.ch
社説 WTO改革 機能強化の議論を前へ | 信濃毎日新聞[信毎web]
その意味で、WTOの無力さを責めるのはフェアではないんですよね。ついでに言えば、「改革」「機能強化」できなかった前任者たちを責めるべきでもない。なにしろその大国が関わる重要問題の利害調整は、少なくとも21世紀の現時点では国際機関・条約の頂点にあるだろう国連においても制度・システムとしては実現できていないのだから。アナンさんは失敗したのだ。
もし仮にそれができるのであれば、貿易という重要な問題だからこそ国際機関による解決が必要だというのなら、そもそも国連で既に実現出来ていて然るべきでしょう。


もちろん経済や安全保障に絡まない「重要ではない」分野では進んでいる面もある。しかしそれはICCなどを見れば解るように、内政や外交において安易な妥協が許されない重要な問題あればあるほど大国間の利害調整は難しくなっていく。
それは結局、悲しいかな私たちは未だ国際関係では無政府状態に生きていることの証左でもある。


国際機関の限界について。良くも悪くも国連はその限界を弁えているからこそ、現在までそれなりの影響力を維持してこれた。
はたしてWTOはどうなるんでしょうね? ここで彼らの手によって問題解決の道筋をつけることができれば一発逆転で機能強化という未来が見える可能性もある。しかし失敗すれば「いざという時の紛争解決に役に立たない」というレッテルが張られることは間違いない。


WTOはその自由貿易に対する不義に鉄槌を下すことができるのか。そして、もしそれに失敗した時、彼らは……、
みなさんはいかがお考えでしょうか?