かれらの「次の」非対称戦争

自由でない人たちでも、自由を利用できるすばらしい世界。


トランプ氏、中国が中間選挙に「干渉」と - BBCニュース
2001年以来続いてきたもののオバマ政権で表面的には終結した「対テロ戦争」に続く、アメリカがこれから始める(かもしれない)新しい戦争の序曲という感じかなあ。

国連安保理会合は、核兵器化学兵器生物兵器への対策を議論するため、米ニューヨークで開催されている。トランプ氏はこの会合で、中国が選挙に介入しようとしていると非難した。具体的な証拠は示さなかった。

「残念なことに、私の政権に対抗して、11月に実施予定の2018年中間選挙に中国が介入しようとしていることを発見した」とトランプ氏は述べた。

「中国は私あるいは我々に勝ってほしくない。私は貿易について中国に対抗する史上初の大統領だからだ。そして我々は貿易で勝ちつつある。あらゆる段階で勝ちつつある」

「我々は中国に、これから始まる選挙に干渉もしくは介入してほしくない」

中国の王外相はこの発言に対し、「中国は、他国の国内問題には不介入という原則を常に守ってきた」と安保理で述べた。

「これは中国外交政策の伝統だ」

王氏は続けて、「我々は他国の国内問題に介入してこなかったし、これからもしない。中国に対する根拠なき非難は受け入れない」と話した。

トランプ氏はその後、地元紙の一部の写真をツイッターに投稿し、記事を中国の「政治宣伝」だと書いた。

トランプ氏、中国が中間選挙に「干渉」と - BBCニュース

面白いお話なのは、正規軍対テロリストという典型的な非対称戦争に続いて、次のステージである内政干渉をめぐる議論でも非対称な戦い突入するアメリカという点かなあと。以前の日記でも少し触れましたけど、選挙制度が事実上機能していないロシアや中国に同じレベルの反撃をするのは難しい。
――自国にはまったく自由の議論の場がない人たちが、相手が持つ自由な議論の場を利用して政治扇動する。
またもや非対称な戦いに直面するアメリカ。


まぁもちろん世界の唯一超大国であるアメリカであれば、相手がどの国であろうが「対称」になるような戦いをする時点で勝負にならないという身も蓋もない現実があったりするんですけども。実際その「対称性」を求めて争っているのが「公平な貿易」を訴えるトランプさんの今の貿易戦争でもあるわけだよね。
【オピニオン】トランプ氏の商才、貿易協定で勝利呼ぶ - WSJ
自由貿易支持をする彼らの念頭には「真っ当に戦えばアメリカが(貿易でも)負けるはずない」「だから関税(補助金)をなくせ!」という確信があり、そしてその確信は概ね正しい。
故に冷戦以後の彼らは「大と小の戦い」こそ念頭に考えてきた。それが中国の台頭(ついでにロシアの復活)によって、通常戦争へ予算回帰しつつあるのが面白いトレンドでもあるんですがこの辺はまた別のお話。



話を戻して、ここでもう一つ面白いのは、しかしそもそも論をすれば、このプロパガンダ・政治宣伝・政治工作――何と呼ぶかは好きにすればいいとして――を用いた情報戦って、これまでその非対称性を利用してきたのがアメリカやヨーロッパ政府と一体化していた巨大メディアたちの方から仕掛けた戦いでもあるわけですよね。ハリウッドこわい。日本の作品も規制されたりしてましたね。
そしてそれは逆に、しばしば、旧東側陣営へのネガティブキャンペーンでもあった。『収容所群島』ってこわいな!
私たち日本も属するリベラルな『西欧的価値観』って、そうした巨大メディアの影響力の帰結として冷戦期を通じて世界で確固たるものとなってきた。
「今後は中国とそれ以外の2つのインターネットが存在するようになる」と元Google CEOのエリック・シュミットが語る - GIGAZINE
「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」をめぐる議論の大半はロシアの荒らしによって誘導されていたという研究結果 - GIGAZINE
【緊迫・南シナ海】台湾・蔡政権、24時間態勢の警戒強調 中国の心理・世論戦に対応腐心 - 産経ニュース
ところがぎっちょん、21世紀のこのすばらしき新時代では、最早世界的メディアを用いずとも、私たちは誰でも世界中に情報発信が可能な時代となった。私たちが夢見た誰もが繋がれる世界とは、分断を容易に生める世界だったというオチ。まぁ私たちも『3・11』で散々見た不毛な光景ですよね。


米国:「中国が内政干渉試みている」ペンス副大統領が批判 - 毎日新聞
米ペンス副大統領、中国非難の演説 台湾問題にも言及:朝日新聞デジタル
アメリカがこれから情報戦で戦うだろう非対称な戦いについて。今後そうした水面下の争いが弱まるのか強まるかと聞かれれば、まぁ現状の関係を見ればお察しだよね。
ちなみに、これに抵抗するには中国的手法が有効なんだよね。

しかしシュミット氏は、「もし『中国はインターネットをうまく使っている』とだけ考えるとしたら、あなたは大事なポイントを見落としています」と指摘。そして「『グローバリゼーション』はすなわち、中国が影響力を発揮するようになるということを意味します。今後、世界は中国からやって来る商品やサービスが優れたリーダーシップを発揮するのを目の当たりにするでしょう。そこには、それらの商品やサービスと一緒に、検閲や規制といったものがもたらされる危険があります」と、アメリカが主導してきた基本的に自由なインターネットとは異なる価値観がもたらされることを予測しています。

「今後は中国とそれ以外の2つのインターネットが存在するようになる」と元Google CEOのエリック・シュミットが語る - GIGAZINE

面白いお話。どちらがより強いかと聞かれると、うーん、まぁ、そうねぇ。これからは単純に自由を規制するというよりは、中国がウイグルでやっているように「行動が監視されている(可能性がある)」という方がスマートかもしれないね。そして私たちは自主規制に走るのだ。


はたして日本はどちらに向かうのでしょうね? 本邦でもリベラルな人たちからも「悪い意見は規制しろ!」という意見が少なくないので、自由なインターネットからは遠ざかるのかな? でもまぁそれすら欧米のトレンドに沿っているとすら言えるんですけども。


アメリカが直面する非対称戦争、そしてインターネットの未来について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?