クリミアで二度死ぬ

『ヨーロッパの平和』の終わりかた。


ロシアとウクライナ、海上で衝突 なぜこれほど緊迫 - BBCニュース
【軍艦拿捕】 ロシア拘束のウクライナ乗務員、ロシアのテレビに - BBCニュース
【軍艦拿捕】プーチン氏、問題はウクライナ大統領が仕組んだと非難 - BBCニュース
ということでクリミアは、橋が完成してから再びどったんばったん大騒ぎの様相であります。

11月25日の早朝にあった拿捕の数時間前、ウクライナの小型砲艦1隻がロシア当局に電話をかけ、アゾフ海に入る航行計画を通知したところからこの問題は始まった。

その約ウクライナの艦船団は銃撃を受け、さらに約18時間後、ケルチ海峡通過の計画を諦め、オデッサに戻ろうとしたところを拿捕された。

ロシアは法律が自分たち側に有利と主張する。しかし、ロシアが併合したクリミア半島近海は、いまだに国際法ウクライナ領海だ。またロシアとウクライナは、アゾフ海の通行権を2国ともに与える協定を、長期にわたって維持している。

【軍艦拿捕】プーチン氏、問題はウクライナ大統領が仕組んだと非難 - BBCニュース

いやあ、まるで尖閣辺りの別の世界線を見ているようですよね。私たち日本にもまったく他人事ではないので、あんまり笑っていられないというか、色々と参考にしながらも戦々恐々となるお話ではあるんですが。まぁ現代世界でも尚、結構ちらほらあるお話ですよね。
クリミア帰属の行く末について。
――国際法が定める領土領海と、現実に確立された実効支配による主張、一体どちらが強いのか?
現状ではどう見てもロシア側に有利なように見える。しかしその現実を認めるということは、そのまま国際法の敗北へとつながりかねない危険な道でもあります。まぁ南シナ海での中国軍事基地いざこざを見れば、世界は既にそういう方向へ向かっているし、それこそ歴史の日常だろうと言うと身も蓋もありませんけど。



21世紀の平和主義 - maukitiの日記
「20世紀の平和主義」の終わり - maukitiの日記
最近の日記でも少し書いてきたお話ではありますが、ウクライナにどれだけの意図があったかはともかくロシアが「こういう」態度に出るということは、必然的にEU=ヨーロッパもまた同様の対抗手段に出なくてはならなくなる、という意味でもあるんですよね。既に行われている経済制裁の更に先へ。それってつまり、軍事的対抗っていう意味でもあるんですけど。そうしなければ、こうした行為を座視してしまうなら、そもそもNATOの存在意義などなくなってしまう。
この流れはほとんどそのまま、ポスト近代な平和主義を謳っていたヨーロッパの平和構築の試みの終焉でもある。ヨーロッパ内部では実現出来ていた信頼関係と透明性による恒久平和が(まぁそれがほぼ実現したというだけで十分すごいとは言えるんですが)、しかしヨーロッパの「外」では不可能だったというだけ。
冷戦末期から始まり、細かな内実はともかくとして建前としては概ね機能してきた通常戦力競争の制限(CFE)や地域の核戦力制限(INF)が終わりつつあるという事は、冷戦後ヨーロッパだけでなく、私たち日本のリベラルな平和主義者たちが目指した平和世界モデルの終焉でもある。
クリミアの件はその象徴的出来事よなあと個人的には思ってます。ヨーロッパがG7やEUNATOなどの加盟を通じて目指してきた、ロシアとの恒久的平和関係構築の挑戦の終わり。こうして立派な橋まで完成した以上、最早元の状態に戻すことは不可能でしょう。それはつまり、ロシアとの決定的対立関係の復活か、あるいはウクライナを切り捨てるかの二択である。



信頼関係に基づいた国際法と軍備管理条約さえあれば、もう軍事力なんていらなかったんや! それに拘泥するアメリカは野蛮人! 時代遅れ! 日本は平和なヨーロッパを見習え!
――ところがぎっちょん、現実にクリミア併合の顛末で起きたことといえば、
「法は剣なんかに絶対負けないッ!!!」→「やっぱり勝てなかったよ……」という即オチ展開でしかなかった。





こうした「平和の終わり」がヨーロッパの最外縁とも言えるクリミアでご覧の有様で終わりつつあるっていうのは、やはりなかなか考えさせられるお話でしょう。それこそ短いながらも戦乱の地ヨーロッパに平和を実現した19世紀後半のウィーン体制と、その後やってくる全ヨーロッパ=世界を大破滅へと導く端緒となったのが、同じ「クリミア」だったことを考えるとまた歴史の繰り返しとしてとっても面白いよねえ。
いつだって最周縁部から混沌がやってくる、というとやっぱりローマ以来の人類史共通の出来事ではありますけど。


はたして「再び」ヨーロッパの短い平和はクリミアから崩れることになるのか。
みなさんはいかがお考えでしょうか?