Come back to Flashman

グレートゲーム復活!


そして誰もいなくなった、マティス長官辞任の衝撃 「大人の枢軸」の最後の一人、トランプ政権の分水嶺に(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)
そういえばマティスさんが辞任してしまったそうで。

中間選挙に先駆けた典型的なトランプ劇場だった国境警備策は、文民と軍の一線を越えた。だが、最後のとどめになったのは、米軍のシリア撤退に関する19日のトランプ氏のツイートだった。

 撤退はマティス氏――そして、同氏以外のほぼすべての人――の切迫した助言に反していたからだ。

 さらに、テロ組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を打倒したというトランプ氏の前提は、事実によって否定されている。

 シリア、そして中東全般の一部の地域では、ISISは勢力を盛り返している。

 これから何が起きるのか。誰がマティス氏の後任になるにせよ、世界は――筆者が見ていた人気ゲームショーのように――貴重なライフラインを失った。

そして誰もいなくなった、マティス長官辞任の衝撃 「大人の枢軸」の最後の一人、トランプ政権の分水嶺に(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)

ここでいうシリア撤退は確かにそれくらいのインパクトあるお話かなあ。マティスさんのような現実的な実務家が辞任を決断してしまうほどには。もはやアメリカはシリアの安定に関与するつもりがないという宣言。
――それこそアメリ外交政策の『大転換』と称せるほどでしょう。


Farewell to Flashman: U.S. Policy in Central Asia and Caucasus
かつてクリントン政権時代の国務副長官だったストローブ・タルボットさんは、アメリカが冷戦後に目指す最終目標について演説していたんですよね。トランプさんが今ひっくり返そうとしている、冷戦後に目指すべき平和的新世界秩序の嚆矢として。
世界における安全保障や地政学上の重要な地域における政治経済の安定した発展を目指すべきであり、最早グレートゲームは終わり「フラッシュマン*1との別れ」なのだと。(外国政府による)それ以外を目指すような政策にはアメリカは断固として反対していく。

The ominous converse is also true. If economic and political reform in the countries of the Caucasus and Central Asia does not succeed -- if internal and cross-border conflicts simmer and flare -- the region could become a breeding ground of terrorism, a hotbed of religious and political extremism, and a battleground for outright war.

Farewell to Flashman: U.S. Policy in Central Asia and Caucasus

それを許せば「その地域は、テロリズムの血みどろの戦いの場、宗教・政治過激派の温床、全面戦争の戦場となりかねない」と。
もちろんここで彼が当時言及していたのはコーカサス中央アジアでの石油権益争いの話ではありますが、しかしその懸念は15年後少し南方でほとんどそのまま現実の光景となっている。最悪の想定について、まるで現在のシラク及びイラクをそのまま見通している様ですよね。ただ慧眼というよりは、むしろ旧来から言われていた理論の正しさという感じ。


しかし最早トランプさんはそうした地域での政治経済の安定的発展をアメリカが支えるような負担を負うべきではない、警察を担当するべきではないと考えている(ように振る舞っている)。
まぁもちろん辞任してみせたマティスさんのように、そうした態度が間違っているという意見が正しいということはできるでしょう。大人の枢軸=アメリカ政治のエスタブリッシュメントでは主流なのかもしれない。
――しかし一方でトランプさんの意見が正しいという可能性ももちろんあるわけで。もしかしたら以前の歴代アメリカ政権は到底実現不可能な目標を追い求め、そしてその埋没費用のために『世界の警察』に固執しているだけではないか、という経済人らしいリアリズムな見方をするトランプさんの意見が正解である可能性だってあるわけですよ。これまでのアメリカは、冷戦後にノリノリで決めた壮大すぎる目標のコンコルド効果に囚われているだけなのだと。


シリアからの撤退が示すのは、最早アメリカが世界の安定から責任をもとうとしないことの証左である、という指摘はおそらく完璧に正しい。
しかしその上で、そもそもアメリカがそうするべきだったのか否か、については議論の分かれる所でしょう。実際、アメリカ国内にとどまらず子ブッシュ政権の時代から既にそうしたアメリカの振る舞いを批判してきた声はロシアや中国だけでなく、同盟国である欧州や日本など世界中からあったわけだし。



惨禍としてはもはや行き着くところまで行き、しかしそれ故に終焉に向かいつつあるシリア内戦。本来ならばこうした惨禍を避けること=地域の安定的発展こそアメリカが目指そうとした21世紀の新世界秩序であった。

  • 子ブッシュ政権は(結果は上手くいかなかったけれど)少なくともそれを目指そうとしていた。
  • オバマ政権は(上手くいかないと内心恐れていた故に)半ば放置し、しかし関与を完全にやめることもしなかった。
  • トランプ政権は、もういっそ完全に手を切るべきだと決めようとしている。

振り返ってみればトレンドとしては素直に理解できる流れですよね。トランプさんで唐突に始まったわけでもないし、オバマさんが急に弱気になったのでもないし、子ブッシュさんがいきなり始めたわけでもない。何もかもあの『9・11』の瞬間から。


アメリカの『世界の警察』の消失ということは、つまり再びグレートゲームの時代の復活でもある。
ストローブ・タルボットがさよなら宣言をしたはずの、世界の重要地域で諜報合戦をする時代の復活でもある。トルコが、シリアが、ロシアが、イランが、クルドが、各国各勢力自らの権益の最大化を目指して。


さよなら世界の警察。おかえりフラッシュマン
世界が平和でありますように。

*1:19世紀グレートゲームの時代を題材にしたフィクションに出てくる英国軍人。ローヤル・フラッシュ - Wikipedia