ドラクエテン 森の生活のおわり

あるいは名誉殺人のようななにか。



元次官長男「俺の人生は何なんだ」 6日前激しい暴行か:朝日新聞デジタル
そろそろ事件直後の熱狂は過ぎ去ったかもしれないので適当なことを書いても許されるかもしれないので適当日記。
世間を色んな意味で震撼させた引きこもりの悲劇、あるいは上級国民による予防的介錯な子殺し。

 捜査関係者によると、英一郎さんは家にこもってゲームで遊ぶ一方、26日には熊沢容疑者に激しく暴行。自暴自棄な様子で叫ぶこともあった。熊沢容疑者は妻に「長男に危害を加える」との考えを口にしたという。

 隣の小学校で運動会が開かれた6月1日、英一郎さんが「うるさい。ぶっ殺すぞ」と発言。4日前には川崎市で児童ら20人の殺傷事件が起きたばかりで、熊沢容疑者は「子どもたちに危害を加えてはいけない」と感じたといい、午後3時半ごろ、包丁で英一郎さんを殺害した疑いがある。

元次官長男「俺の人生は何なんだ」 6日前激しい暴行か:朝日新聞デジタル

うーん、まぁ、そうねえ。同じDQ10プレイヤーとしてはやっぱり色々と思う所はあったかなあ。僕もだいぶプレイ時間は減ったとはいえ、まだ細々と続けているし。もしかしたらすれ違っていたこともあったかもしれない。
事件そのものに関しては、うん、まぁ、ネトゲプレイヤーってほんともう頭のおかしい奇人変人ばっかだというのを大前提にやっているので特に思うことはないです。現実世界は出稼ぎでしかないのだ。






ともあれ、面白いのは、文脈としては先に起きた登戸での無差別殺傷という大事件の前提もあってか、「殺したのもやむをえない」「引きこもりならば殺されてもしかたない」という普段の厳罰希望なトレンドとは逆の、加害者擁護な父親への同情が広く社会・ネットに出ていた所かなあと。
そうだよね。働いていないなんて殺されてもおかしくないような罪だもんね!
神は労働に宿る - maukitiの日記
私たちの愛した『労働教』 - maukitiの日記
尚も「善く働くことこそ善き人生」という労働教文化の内に生きている私たちなのだからしかたない。殺された彼は子供に暴力を振るおうとした未遂の罪だけではなく、働いてもいないという二重の意味での罪人であったのだ。
殺された彼は法律違反でこそなかったが、重大な倫理コード違反である。
もともとの罪人が更なる罪を犯してしまうのを看過するくらいならと、父親は必要なことをやってみせたのだ!


だから今回の件って『名誉殺人』にちょっと近い所があるとも思うんですよね。
当事者以外の私たちが端から見ての(無責任な)感慨として。
ふだんリベラルな私たちは一部地域で尚も続く、そしてヨーロッパ社会へも着実に輸入されている、「一家の名誉を傷つけるような淫らな行為をした」な名誉殺人な文化を批判する事が多い。
ところが一方で、私たちの文化的規範では親が子の為したことへの責任を問われる光景はそれこそ無数に繰り返されてきたし、そして何よりその家庭内の引きこもり・ニート・無職という「不名誉」を雪ぐための殺人ならば……。もちろんまったく無罪だとはいかないものの、しかしかの事情を考えれば情状酌量の余地がある、と考えてしまう少なくない私たち。
何故なら殺された不出来な息子は、私たちが信じる「善き生き方」に従わず秩序を乱し、名誉を穢す罪人であったからだ。




かくして森(アストルティア)の生活に逃げ込んだはずの彼は、しかしその都市社会生活における不名誉故に殺されてしまうことになった。




ちなみに、今回の件で一番皮肉でウィットが効いていると思うのは、現実生活を捨てゲームの世界で生きていた引きこもりで無職な彼ではありますが、実のところそのDQ10アストルティアの世界というのはそれはもう「金こそすべて」という現実真っ青なゴールドイズパワーな世界なんですよね。まさに彼がゲーム内の自己紹介文にも残金(=所持金)を1億ゴールドとドヤドヤと載せていたように。
(最近ようやく緩和されつつあるとはいえ)ほんともうあの世界は金がなければ何もできない世界であります。
DQ10も無職にはきびしい。


「何故われわれは、こうも人生をあわただしく、無駄に生きて行くのだろうか?」
敬虔な労働教の信者としての振る舞いを見せた父親と、ウォールデンにはなりきれなかった息子。


みなさんはいかがお考えでしょうか?