「風俗でコトが終わった後に説教を始めるオッサン」な寓話的光景

まさか本当にリアルで見られるとは。



株式会社クローバーフィールドの考える「信用できない社員」とは - Togetter
これはまた現代日本の一部を象徴するかのような逸材が。
いやまあ悪名は無名に勝るという真理もあったりするし、実際こうして「名を売る」という点においてはそこそこ合理的ではあるし。ザ・炎上商法。
――でも、エクスキューズにするかのように「あ~問題発言しちゃいそう」とか最初に言っているのがひたすらキモいというのには強く同意します。
「毒舌注意」を自称してしまう地雷感。


しかしこのように考える人自体が珍しいかというと、まぁそんなことはないよね。いい年をした一部私たちには身に染みるあるあるネタであろう親戚集まりの際の「結婚しないの?」「いい人いないの?」という無邪気な質問は、かの大前提の下にひたすら善意からなされているのだし。
『家庭をもって一人前』という社会的規範の下に。
かつての日本では――いや世界中の旧社会でもそれが強固だったことは間違いないし、「一部の(ここ重要)」先進国を除けば、現代世界でも尚支配的価値観ですらある。
初対面で見知らぬ他人にまでそのようにあけすけにまず質問することは、さすがに中世ジャップランドですらそこまで『常識的態度』ではなくなりつつあるものの、海外に出ればそれはもうそのように聞かれることは少なくないわけだし。


だからここで殊更にユニークなのは、「家庭を持つ既婚者こそが有益な社員である」という価値観自体ではなく、あるいはそれをこうして公に憚らずに口にすること自体でもない。
ここで一番面白い構図なのは、彼(あるいは彼女)が「家庭を持つ既婚者」こそが真に有益な部下である」と言いながら、一方で優遇するとしているのは既婚者って所だと思うんですよね。
第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)|国立社会保障・人口問題研究所
一般に若者が結婚しない理由の最も大きな要因の一つが「金のなさ」というのは概ね明確にエビデンスある事実としてあるわけで。それなのに彼らは「既婚者」こそを手当で優遇し独身を差別するって事実上公言している。
それっておかしくない?
彼らは、未来について真摯に向き合うだろう(と彼らが信ていじる)「有能な」社員が欲しいと思っていながらも、しかしその有能な社員を増やす=家庭を持つ為に最も大きなハードルであるはずの賃金を自らは上げようとはしていない。本当に有能な部下を増やしたいのであれば、むしろ社内の独身者たちの手当を厚くして結婚させることができれば彼らの利益にもなるはずでしょう。だってそうすれば新たに未来に目を向ける社員が増えることになるのだから。
しかしクローバーフィールドはそうしようとしていない。むしろやっているのは真逆ですよ。だから既婚者こそを優遇しよう。挙句に「(賃金は安いと公言しながら)一人暮らしの経験も大事」だって言ってしまう始末。カネのない独身者を優遇しようとする気持ちはこの口調からも一切見られない。
選択と集中しなくちゃいけないからね。しかたないね。


まるで、だからそれらは金のない我々ではなくどこか別の企業がやるべき施策であって、自分たちはそうした別の企業のがやった社会的貢献の上前を撥ねられればそれでいいとでも思っているのかな?


いやまあ他者が生み出した公共財などから最大限の利益を得る、というのは確かに合理的ではありますよね。
自分たちは美味しいところだけをもっていければいい、なんて。
自分たちは既婚者という優秀な社員が増えて欲しいと願っているが、自分たちでそれを増やすのは無責任な社員が増えるのでしたくない。支離滅裂な思考、ではなく合理的思考として。おそらくこうしてtwitterで公言する辺り真理だと確信して。
それって、私たちがしばしば悪意を込めて『フリーライダー』って呼ぶ行為なんですけど。
ふつうそういうのって出来る限り隠しておくべきなんじゃないかなあ。


「我が社は日本社会におけるフリーライダーである」というCSR*1なんてクソくらえっていう企業方針を敢えて露悪的にわざわざ口にしているのであれば上記の通りいい歳しているだろうにキモいなあという感想には改めてなるし、もし解っていないのならば、ほんとうに、しんそこ、あたまがわるいなあとおもいます。


いやまぁそれを自覚し実践しているのならば、やっぱりそれは一つの企業戦略ではありますけども。
生き残りに必死な中小企業は選択と集中しなくちゃいけないからね。しかたないね。
……ん? この人さっき独身社員に対して「世の中への責任感など」が欠けるって言ってなかった?
社員には「世の中への責任感」を求めるが、しかし企業方針としては「世の中への責任感」などクソくらえってことなのかな?
いやあ、それってとってもロックだね!


自分はカケラも「世の中への責任感」を見せないくせに、社員にはそれを求めるクローバーフィールドというすばらしくロックな企業。
言動と行為の不一致。
この構図ってどっかで見たことあるなあと思ったら、「風俗でコトが終わった後に説教を始めるオッサン」っぽいんだ。
せめてコトを始める前にするならば、あるいは独身者にきちんと手厚い手当をした上でそれを言うならばまだ説得力があったのにね。


しかし自身の欲望と正義に忠実な彼らはガマンできずにそうしてしまうのであった。やっぱ愉快なお話だよね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:これ自体は僕も割と批判的ではありますけど。企業の社会的責任 - Wikipedia