アマゾン群像劇

グローバルな環境問題が解決できない現代世界の縮図。


ブラジル、G7のアマゾン火災支援を拒否 - BBCニュース
少し前から続いている今更なニュースですけども、アマゾンが燃えているそうで。
そうそう、本邦でも中華業者の蔓延でレビュー機能がほぼ死んでいてねえ……。

アマゾン川流域の広大な熱帯雨林で次々と森林火災が発生している問題で、ブラジル政府は26日、主要7カ国首脳会議(G7サミット)でG7が合意した2200万ドル(約23億3000万円)の消火対策支援を断る意向を示した。消火活動への消極姿勢が批判されているジャイル・ボルソナロ大統領の首席補佐官が、ブラジル・メディアに明らかにした。

ビアリッツで24日と25日に開かれたG7サミットで、各国はアマゾン川流域の森林火災対策に資材や資金を提供すると合意した。開催国フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、G7諸国が2200万ドル(約23億3000万円)の金融支援を提供すると述べた。

ブラジル、G7のアマゾン火災支援を拒否 - BBCニュース

やったねボルちゃん! 邪魔な熱帯雨林が燃えて農地が増えるよ!


このアマゾン森林大炎上ネタって、個人的にまぁものすごく要素てんこ盛りで面白いお話だと思うんですよね。
現代の国際政治の縮図という感じ。最近この縮図ネタ多いなって自分でも思ってます。



「先進国vs後進国」という構図の突破(できない)

もちろん私たちにも影響を受けずにはいられないだろう地球温暖化問題の観点から言えば、アマゾンの森林面積減少には心穏やかではいられないでしょう。
しかし、しばしば指摘され今回も同様にブラジルから反発されているように、この森林面積減少って先進国であればほとんどどこでも自分たちも通ってきた道、でもあるわけですよね。
その『原罪』という意味では私たち日本は比較的マシですらある。他には北欧諸国とか。
私たちは人類は、それこそ文明の始まりから(故に古代文明があったところはほとんどどこでも伐採圧力で森が消えた)森刈り倒してきたわけで。森を切り開き、農耕し放牧しそして都市を作ってきた。森を伐採すれば建築ボーナスが得られるってciviliaitionで習いました。
それは先進国にとってすら、せいぜい100年~200年前までずっと続いてきたトレンドでもあるわけですよ。

これについて、ブラジル政府のオニクス・ロレンゾニ大統領補佐官は「グロボ」ニュースサイトに、「ありがとう。しかしその資金は欧州の森林復活に使ったほうが良いのではないか」と述べた。

ブラジル、G7のアマゾン火災支援を拒否 - BBCニュース]

かつてヨーロッパ世界あった「消えた大森林」はこの文脈でよく語られる物語ではありますよね。
もちろんブラジルから言われるまでもなく、現代欧州はその反省から徐々に森林を復活させ――といってもせいぜい日本の半分程度の割合しかない――ているものの、それはつまり原生の森を刈り倒した後に人工的に復活させたという意味でしかないわけですけど。
元々『森』があった利用しやすい土地を先駆者たちはそうやって開発してきたのに、それを今になって遅れてきた人たちに向かって「やっぱ地球によくないからやめよう」というのは余りにもフェアではない、という意見がある程度の正当性を持っていることは間違いないでしょう。
しかも上から目線で。


そうした不平等・不誠実だという感覚は、典型的な『共有地の悲劇』の構図を持つグローバルな自然環境問題で、更に利己的に振る舞うインセンティブを生むことになる。
――だって何しろ上から目線でありがたくも説教をしてくれる先駆者たちは、実のところ既にその罪を犯した前科者たちでもあるのだから。だったら自分たちも同じことをやって何が悪いのか。


面白いのは、皮肉にも欧州人たちがルソー的な自然至上主義やリベラル価値観から、自分たちの過去の所業を悔い改めるようにすればするほどその正義感から同様のことをやる人たちへの説教は上から目線になるし、同時にまたその罪深さを自省の為に強調すればするほどしかし同時に自身の論理の説得力を失っていくところでしょう。
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この辺の自縄自縛感は、既に自然保護に熱心な著名人たちの行動に関する議論でもしばしば指摘される構図であります。
彼ら彼女らは過去の蛮行・愚行を反省すればするほど、そもそも自分たちの現代的文明的な生活がどのような土台の上に築かれているのかというギャップと、そして現在進行形で同じようになりたいと願っている人たちとの妥協点を見失っていく。


現実的な妥協点を見いだせない人たちは、更に理念的な行動ばかりになって、その理念の追求は運動の先鋭化を招くことになる。
その正義は一般化とは真逆の方向へ。
そんな善意という名の圧力に反発して生まれたのがトランプさんや上記ボルソナロさんのような「自国ファースト」な政治家たちでもあるわけで。グローバルな大目標の一方的な押し付けは、必然的にローカルな反発を生む。


後からやってくる人たちには「自分たちのようになってはいけない」と言いながら、私たちはその豊かで文明的な生活自体を手放そうとしない。
更には「何かオルタナティブな方法で実現できるはずだ」と言いながら、実際に何か具体的な方法を示すわけでもない。
――工業化社会や資本主義無しでどうやって先進国と同じ所に行けばいいの?
アマゾンの熱帯雨林を、飽くなき「資本主義」が焼き尽くす|WIRED.jp
そりゃ後から追う人たちが言う事きくはずもないよね。そんなのムシが良すぎるってものでしょう。
温暖化問題は確かに誰もが他人事ではないグローバルな問題ではあるものの、そもそもその種を撒いたのは誰だって話でもあるわけで。


先進国に住む私たちには、他の多くの事例についてと同様、環境問題についても『原罪』がある。
しかしその『原罪』故に後進を説得することは難しい。


内政不干渉という『壁』(こわせない)

それならいっそパワーで正義をゴリ押しした方が、まだ現実性があるはずなのにね。
しかし「善き」人であろうとする私たちはそんなこと今更できるはずもなく。経済力なら……、うーん、まぁ、ギリギリセーフ? でもそれって中国がアフリカとかでやってることと何が違うの?

アマゾンの森林火災を「国際的危機」と呼ぶマクロン氏は「ただちに」、空中消火の飛行機の費用として資金を提供すると表明。さらに、フランスは「数時間のうちに軍による具体的な支援を火災の地域に」を送る用意があると述べた。

これに対して、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、アマゾンを「救う」ため「同盟」するというマクロン氏の計画は、まるでブラジルを「植民地か無人地帯のように扱っている」と反発した。

森林火災をめぐりマクロン氏と公然と対立を続けるボルソナロ氏は、マクロン氏が「アマゾン地域に不当で余計な攻撃」を率先して行っていると批判し、「G7諸国の『同盟』というアイデアの後ろに真意を隠している」と攻撃してきた。

ブラジル、G7のアマゾン火災支援を拒否 - BBCニュース

かくして結局は彼ら彼女らの善意は「国家主権」「内政不干渉」という私たちの現代世界秩序の最も基礎にある『壁』を越えることはできない。
これはもう自然保護の為に世界秩序をぶっ壊すしかないね! 自然保護の為には地球はカオスになったっていい!
――と言い切れるほど頭がイカれてれば話は簡単だったのにね。


伸び続ける順番待ちの列(すすまない)

ということで結局、現状での最大公約数な解決策といえば、遅れてやってくる彼らが私たちと同じように考えてくれるようになるのを待つしかない、ということになる。
時間が全てを解決してくれるはずだから。

「アマゾンを救おうといった考えは捨てなければなりません。結局は、わたしたちの国のことではないのです。ブラジルには森林火災に立ち向かう能力も財政的な余裕もあります。ただ、政治的なレヴェルで戦う意思がないのであれば、それは別問題なのです」

ブラジルの国民はボルソナロを大統領に選んだとき、結果として何が得られるかを理解していた。「現大統領は、環境保護規制の緩和や先住民の住む地域での鉱山開発の許可といったことを明確に打ち出し、その上で当選しました。いま起きていることは驚きでも何でもないのです」

アマゾンの熱帯雨林を、飽くなき「資本主義」が焼き尽くす|WIRED.jp

それってつまり、何もしない、ただ待つ、という答えでもあるんですけど。
そしてその順番待ちの列には、今でもあと50億人くらい並んでおり、更には今後も増加し続けることがほぼ確実でもある。アキレスの亀かな?




私たちの『原罪』により説得が不可能である以上、別の方法を待つしかない。
内政不干渉という原則が壊れるのが先か、後からやってくる人たちが追いつくのが先か、あるいは地球が壊れるのが先か。


みなさんはいかがお考えでしょうか?