『気候正義』の正しさの射程はどれくらい? 

それは私たちが生活スタイルの変化を無条件に許容できるくらい?


地球温暖化を止めるには私たちが「肉や乳製品を食べなくなる」ことが不可欠 - GIGAZINE
まぁ概ね言っている事は正しいとは思うんですよね。ザ・ぶっちゃけトーク。文中でも言われているようにそれっぽく「不都合な真実」と言ってもいいかもしれない。

フォア氏は「地球が危機的状況にあることは多くの人が意識しているものの、実際に地球温暖化に対抗するべく活動している人は少ない」と指摘。2018年には人々がこれまで以上の環境に関する情報を手に入れていたにもかかわらず、過去最高の温室効果ガスを排出しました。これはつまり、問題認識はあっても多くの人が行動に移せていないという状況があることを意味します。

もちろん温室効果ガスの排出は一個人の活動で全てが決められるものではなく、中国やインドでの石炭使用の増加、世界経済の成長、人口の増加、さらに極端な気候による冷暖房使用の増加といった理由もあります。しかし、多くの人々が実際に地球温暖化対策を行っていないという点も事実であり、人々は地球温暖化の危機から目を背けているとのこと。

地球温暖化を止めるには私たちが「肉や乳製品を食べなくなる」ことが不可欠 - GIGAZINE

「子どもの数を減らす」「自動車を使わない生活をする」「飛行機に乗らないようにする」「植物中心の食生活にする」
身も蓋もないお話。それらが私たちの生活をかなり劇的に変えるのは間違いないよね。
(僕自身も含めて)普段は気軽に「温暖化ヤバい」と口にはするものの、しかしその対策のために私たちはどれだけの不便さ・ガマンをする覚悟があるのか、と問われるとまぁしり込みしてしまうよね。
そこまでする気はないって答える人が圧倒的な大多数なんじゃないかな。


だからこうしたジョナサン・サフラン・フォアさんの身も蓋もない主張って、逆説的に今話題のグレタ・トゥンベリさんの主張があそこまでウケている理由の一つ、でもあります。
彼女はまさに――一面の真実として――国連サミットに参加するような主流政治家たちの不作為を批判している。
しかし、何もそこに居る政治家たちの無能さや独断や偏見「だけ」によってその不作為が導かれているわけでは絶対にないでしょう。少なくとも民主主義国家であるならば、その政治家の背後には必ずその不作為を容認ないし黙認している私たち有権者の存在があるわけで。
なにしろ彼らを選んだのは、セクシーな小泉進次郎大臣を選んだのは、結局私たち有権者なのだから。


「邪悪そのもの」である政治家たちの『製造責任』のすべてが私たち有権者にあるわけでは絶対にない。
しかしその責任の一部は、そして進まない理由の一部は、絶対に私たちにもある。


これまでの日記でも書いてきたように、彼女の演説には突っ込みどころも少なくはないんですが、意図的なのか天然なのかライターが優秀なのか、上記理由からとても上手くできている内容だとも思うんですよね。
――それは政治エリートの責任を追及する一方で、私たち大衆側のそれをほとんど触れずに済ませているから。
「わるいのはせいじか!」という一点突破。
いやあ単純化された世界観でとても解りやすいよね。
現実世界の複雑さをまるっとオミットしているのも、まぁ話を簡潔にする為だと思えばそこまで悪くもない。


ただ、そうやって見えにくくすることはできても、しかし彼女の「変化」には二つの意味があることは否定しようがない。
マクロな政治を変えることは、ミクロな生活を変えることでもある。
まさに彼女自身が飛行機ではなくヨットでアメリカ大陸に渡ったことそれ自体が証明しているように。


「政治家は世界を変えるべきだ」と主張するとき、それと表裏一体にあるのは私たちミクロな個人生活も同様に「生活スタイルを変えるべきだ」という主張でもある。
だからこそ、この『気候正義』を議論するときに、少なくとも「大人」の議論として、この部分に触れないのはとても不誠実な態度だって思うんですよね。
私たちは一体、その正しさと引き換えに個人の生活からどれだけを差し出すつもりがあるの?




ちなみにここで、トップダウンボトムアップか、どちらが「主」「従」であるのかという点は実は結構重要だとも少し思ったりするんですよね。

  • 私たちは気候変動対策のために、
    • 個人の生活スタイルを変えることで、政治をも変えていくのか。
    • 政治を変えることで、個人の生活スタイルをも変えていくのか。


啓蒙的にエリートこそが変化を主導すべきでなのか、それとも大衆の意識を変えることで社会全体の変化を促すべきなのか。
――少なくとも僕は半径5メートルな人間関係においてすらも、上記4つの生活スタイルの変化を説得することはできないと思うので前者に賛成する以外ないかなあ。
金の話をしていてはお前たちの未来を守れない 金が無ければお前たちの未来を守れない - maukitiの日記
「中間層を沈黙させる程度の能力」を持つ彼女の真髄 - maukitiの日記
だからこそこれまでの日記の末尾で書いてきたように「当日記はグレタ・トゥンベリさんを応援しています」なんですよね。
だってすべての人類に叡智を授けるなんてぜったいむりだっておもうから。上から目線な政治的エリートによる強権発動でしか無理じゃないかな。
そしてそれが多くの面で民主主義政治な価値観とコンフリクトする可能性は、高い。




『気候正義』の正しさ射程について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?