『文明の摩擦』という私たちが今生きる時代

香港への言及は、政治的発言なのか、それとも普遍的権利にかかわる発言なのか?


「中国は海外に対しても言論統制を強めており企業は決断を迫られている」と専門家が主張 - GIGAZINE
昨日の日記の騒動が思ったよりも広がりつつあるそうで。
これはもう僕のようなハンチントンフクヤマオタクとしては、ものすごくwktkする展開です。
まさかほんとうに、こうまであからさまに『文明の衝突』な光景が現実になるなんて! 端から見ている分には、ぶっちゃけどちらに転んでもおいしいので、いいぞもっとやれ感がすごい。


ポケットの中だけにとどまらない香港デモ騒乱 - maukitiの日記
以前の日記ではあくまで可能性の一つとしてだけ触れたお話ではありますが、当事者たちの決死の活動と、そして政府側の杜撰さによって、実際にポケットの中だけにとどまらなくなりつつある香港騒乱。
上記日記こそ書きましたけど、その一方で少なくない可能性で、香港のデモはこのまま背後には『中国政府』というほとんど無限のリソースを持つ存在がある以上、香港政府政府側が遠からずデモ側を圧殺し静かに消えていくとも思っていたんですよね。だからこそ、大多数の外野からすれば香港の騒動って「結末の見えている悲劇(中国政府「そのもの」が揺らぐことはまずない)」でもあったわけで。
それはあくまでローカルな香港という一部地域の内部で、小さなポケットの中の社会にそれまであった各種「自由」が失われるだけ。

シルバー氏はモーリー氏の投稿をめぐる問題について、「平等、尊厳、表現の自由という価値観は、長年にわたってNBAを定義してきました」「アメリカと中国を含む世界中の人々が、異なる問題に対して異なる視点を持つことは避けられず、価値観の違いについて判断を下すのはNBAの役割ではありません」と述べ、再度モーリー氏を擁護する声明を発表。

さらにその後の記者会見において、「私が声明を出したのは、CCTVがモーリー氏の発言内容だけでなく、『モーリー氏の表現の自由を支持すること』に反対したからです」「このような結果は私たちが期待したものではありませんでした。しかし、これは私たちの価値観を守ったことによる結果であり、私たちはこれからも自分たちの価値観を守り続けます」とシルバー氏は主張しました。

「中国は海外に対しても言論統制を強めており企業は決断を迫られている」と専門家が主張 - GIGAZINE

ところがぎっちょんタイムリーな形で、しかも世界規模で動員力の高いスポーツ(及びeスポーツ)を巻き込みながら飛び火しすることで、この話題がただの政治的云々という枠を超えてランクアップすることで『文明の摩擦』という油が注がれる構図が生まれつつある。
「中国は海外に対しても言論統制を強めており企業は決断を迫られている」と専門家が主張 - GIGAZINE
企業利益の保身に走るマクロな大企業たちと見事に対比する形での、自身の不利益を省みない英雄たちのミクロな個人たちの行為
このブログのように匿名では幾らでも言うことはできても、しかし彼らのように実名を晒してああして香港擁護を唱えるのはすばらしく勇気ある行為だと思います。僕には絶対無理でもあるし。


グローバルな時代だからこそ起きる、この「自由」に関しての理解と定義と運用の違いについて。

  • 公で行われる「個人的発言」をする権利を私たちは擁護すべきなのか? 
  • それともこうした政治的発言は公では制限されるべきだという指摘は正しいと認めるべきなのか?

これって典型的な二律背反でしょう。
「他国の価値観に口を出すべきではない」と「個人には自由に発言する権利がある」
私たちは一体どちらを優先するべきなの?


別にそれが大して重要ではないテーマだったら問題なかったんですよ。しかし『政府の政治的正統性』あるいは、『(普遍的価値観と信じてきた)自由の権利』についてコンフリクトしてしまっては、お互いに後には引けなくなってしまう。
しかも後者に至っては、まさにそうした政治的正統性を批判できる自由こそを、守るために生まれた権利でもあるわけだし。
かくして、ザ・『文明の衝突』の時代――とまではいかないにしても、しかし確実に『文明の摩擦』が起きている現代世界。




蛇足ながら、これって実はリベラルな人たちにとってもちょっと福音となる構図だとはちょっと思っているんですよね。
――だって少なくとも自分たちの社会内部で「これは本当にリベラルなのか?」という風に深刻なジレンマを考えるよりもずっといい。どんどん細分化していく、女性の権利や(イスラム的価値観の住民から生まれる)政教分離LGBTの権利の扱い方など、現代リベラルたちには「内憂」がいっぱいあるんですよ。もちろんそれ自体が彼らの正当性を毀損するわけでは絶対にないけれど。
しかし、この「外患」な構図においては少なくとも解りやすく『善*1』のポジションを主張できる。もちろん上記のように経済的なジレンマを生むことにもなるんですけど。
米政府、中国高官らのビザ発給を制限 ウイグル人弾圧めぐり - BBCニュース
一方で、対中国に最も強硬なのが反リベラルな政治的志向でもあるトランプ大統領率いるアメリカ、というのはやっぱりとっても皮肉なお話ではありますけど。
いや、レーガン政権なんかの事例を考えたら特段おかしくはないか。旧西側世界の盟主は伊達じゃないぜ。


私たちはその中国からの要請にどう応えるべきなのだろうか? そしてその解答について考えるとき、更なる疑問が浮上してくる。
今、ふたたび、あらためて、(基本的人権や各種自由権普通選挙による民主主義といった)自由主義は普遍的価値観なのか? が問われるとき。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:もちろんこれは、正しくリベラルらしく「自由主義的価値観こそ普遍的である」という前提に立つ