それをお金で黙りますか?

さすがサンデル先生は慧眼だったなあ。


中国の圧力に「無条件降伏」したNBAの罪 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
これは身も蓋もないお話。でもまぁこの問題の本質的なことを言っているとは思います。
ただ、今回の件こそ大騒ぎにはなっていますけども、ある程度関心があるだろうリベラルなポジションからすれば、この過剰な「対中配慮」という構図がいきなり生まれたわけでは決してないのは今更でしょう。

事実、中国が国外に拡大している検閲とも言える動きに、多くの企業が追従している。例えば、チベットを支持した従業員を解雇したホテルチェーンのマリオット・インターナショナル、国際便の「国・地域」の表記リストから台湾を削除しろという中国の要請を受け入れた欧米の航空会社、反体制派とされる人々の電子メールアカウントを中国側に提供したヤフー......。

中国に対しては、卑屈な姿勢を見せて謝罪することが当たり前になっている。たとえそれが、非常に理不尽なことでもだ。

中国の圧力に「無条件降伏」したNBAの罪 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

「インターネット企業は自由すぎる」と考える人びと - maukitiの日記
「Don't be evil」のevilが意味するモノってなぁに? - maukitiの日記
うちの日記でもちょくちょく触れてきましたけど、大人気のNBAで、あるいはオタクに人気のBlizzardで、とにかく視聴者の多い場所で可視化されたというだけ。
――そこにある論理も単純で、彼ら彼女らはただただ市場原理に基づいて、彼らはそうしているだけ。


この点については、さすが『風刺』については一日の長があるサウスパークが的確なことを言っていましたよね。

「私たちは自由と民主主義よりお金を愛しています。習(国家主席)はくまのプーさんにまったく似ていません」

米アニメ「サウスパーク」、中国で閲覧不可に 制作陣が「謝罪」 - BBCニュース

うーん、ものすごいお言葉。でもだいたいあってる。お金で買えないモノより買えるモノの方が多いだから当然だよね。
ただ中国共産党というだけでなく、私たちの方も同じくらい耳の痛くなるお言葉。


ということでこの構図ってもちろん経済成長を経て超大国に足を踏み入れつつある「大国中国との付き合い方」という新しい一面がある一方で、
しかしもう一つ、こちらは1980年代から30年ほど続いてきた――そしてウォール街金融危機後に頂点を迎えた――市場信仰の問題でもあるわけでしょう。
市場は、価値の善悪、道徳的正しさ、正義の有無を判断しない。
まぁこれは私たちにとって一面の救いでもあったことは否定できないわけですよ。骨肉な政治的な党派性の争いから一歩身を引いていられる。「慎みある大人の態度」としてそのような善悪の問題からは身を引いておくべきである、なんて。
私たちはまさにそうした市場価値こそを愛してきたわけで。それこそサウスパークに揶揄されるように、さもすれば自由と民主主義よりも。


結局この構図って、むしろ賢い中国は私たちが見て見ぬフリを続けてきたこの陥穽をうまく利用している、というだけに過ぎない。
それこそ株主至上主義の弊害って、上記リンク先でも指摘されているようにまぁこれに限らず労働環境や環境汚染などもあって、昔からの定番ネタでもあるわけでしょう。
その対応策の一環として大企業は自社利益だけではないCSR=『社会的責任』という価値観を広めてきたわけで。それが、相手が中国だっていうとご覧の有様っていうのはちょっと面白いよね。

国連グローバル・コンパクトの定める4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)10原則は、いずれも世界的に採択・合意された普遍的な価値として国際社会で認められているものです。国連グローバル・コンパクトは、企業が影響の及ぶ範囲内で「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」の分野における一連の本質的な価値観を容認し、支持し、実行に移すことを求めています。

国連グローバル・コンパクトの10原則 | グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

グローバル・コンパクトってなぁに? それおいしいの?




だからこの問題への言及って、政治家にとっては二重の意味で「美味しいネタ」でもあるんですよね。
横暴な中国に立ち向かうマッチョな政治家というだけでなく、利益至上主義で強欲な大企業たちを真っ当に批判できる中間層貧困層へのポジティブなアピールの場としても。

 一方、ロケッツの長年のファンであるテッド・クルーズ上院議員(共和、テキサス州)はNBAが「恥ずかしくも引き下がった」とし、モーリーGMによる当初のツイートは「誇り」だとコメントした。来年の大統領選挙に向け民主党候補の指名を争うテキサス州を基盤とするベト・オルーク、フリアン・カストロ両氏も中国に謝罪したNBAを批判した。

中国に謝罪したNBAを米政治家が批判-香港巡るツイート発端 - Bloomberg

更に共和党な保守派からすれば、これまで散々リベラルなことを言ってきた大企業たちの誠実さを問うことで、一層オトクな一石三鳥ですらある。
傲慢な中国と、強欲なグローバル大企業へ、正義の鉄槌を。


ちなみにここで困ってしまうのは、端から見ている分には愉快なのが、今後の企業たちの対応の方でもあるわけで。
既にグーグルやアップルがネットユーザーからそうされているように、愉快犯混じりに「では香港の人権状況についてどう思っているのか?」と質問されたら……。
Blizzard ニンテンドースイッチ版「オーバーウォッチ」の発売イベントを中止 - Kultur
そりゃブリザードさんもイベント中止しちゃうよね。かしこい対応だと言うしかない。




ということで、個人的にはこの騒動は現代世界の縮図っぽくてクッソおもしろいのでもっとやれという感じであります。
対中問題と、そして株主至上主義と。
それらが悪魔合体して生まれたこの構図に、これまで建前としてはリベラルな「普遍的」価値観を讃えてきた企業たちは、中国に対してこれからどのような態度をとっていくんでしょうね?


みなさんはいかがお考えでしょうか?