二兎を追わんとする人たちの陥穽が生むモノ

速報性か信頼性か――が生む次なるトランプ。




読売新聞記者 自治体の談話をねつ造「重大な記者倫理違反」 | NHKニュース
読売さんがやらかしていたそうで。
テレビの「やらせ」なども話題になっていますけど、新聞もこの有様というのは、日本に限らず現代社会の重要なテーマだよね。

読売新聞によりますと富山支局の24歳の男性記者は、SNSを使って観光や行政の情報を発信する富山県内の自治体の取り組みをテーマにした記事を書き、今月25日の朝刊の富山県版に掲載されました。

この際、県広報課の「内容が派手な動画や写真に負け、なかなか見てもらえない」という談話のほか、魚津市小矢部市の担当課の談話を取材をしないままねつ造していたということです。

県からの指摘でねつ造が発覚し、男性記者は「記事を早く出したかった」などと話しているということです。

読売新聞記者 自治体の談話をねつ造「重大な記者倫理違反」 | NHKニュース

うーん、まぁ、新人時代にはわりかしやってしまいそうなミスではあります。
読売新聞記者:談話捏造、楢葉町長を取材せず…おわび掲載 - 毎日新聞
ただ、2017年にも同じ不祥事をやっていて、「教育を徹底」した結果がコレ=再犯だというのはまぁそれはそれで笑えないお話になってしまいそうですけど。つまるところ、それが意味してしまうのはこうした「捏造」が日常だったことの証左にもなってしまいかねない。
男性記者は、日常的に周りにあったからそうしたのか? それともこの彼が特別に無能か悪質だったからなのか?
この件も素直に読めば氷山の一角が偶々露わになっただけ、という見方もできてしまうし。
バレなければ、検証されなければセーフなのだ。




ともあれ、その動機として「時間が無くて」こうなったというのは、まぁ色々と示唆的だとは思うんですよね。
既に多く語られてきているように、ネットメディアには悲しいかな『速報性』では勝ちようのない既存メディアたち、という基本的な構図があるわけでしょう。同じ記事を書くにしても、印刷と配達という過程を経る以上絶対に勝ち目がない。
それでも無理に対抗しようとすれば、そらこうなるよね。あるいはより低コスト(人件費)で勝負をしようとすれば。


であればこそ、特に新聞の中の人である彼らには『信頼性』で勝負しようというのが現代ジャーナリズムのトレンドでもある。

先月、アメリカのニューオーリンズで開催されたオンラインニュースのイベント、ONA(Online News Association)に行ったんですが、そこでも「Trust」ということが大きなテーマになっていました。去年は「トランプとどう戦うか」というような話が多かったので、これは大きな変化だといえます。その中では、どうやって自分たちは読者から信頼される報道をおこなうのかという議論がされていて、「選挙報道は今のようなやり方でいいのか、もっと冷静に報じたほうがいいのではないか」ということが、事例を用いて話されていました。

このことからわかるのは、メディアの信頼性をどう高めていくかというのは、日本だけではなく世界全体で共通の課題だということです。

コストのかかる調査報道をどう維持する? 瀬尾傑氏に聞く「オープンジャーナリズム」の可能性

しかしそうした彼らこそが信頼性を自分の手で損なうという構図。今回は読売新聞ですけども、民主主義の根幹だと自称する彼らのこうした『捏造』案件というのは、まぁググればそういった不祥事は一杯出てくるわけで。
悲しいことに彼ら彼女らがより「マス」であればあるほど、その比率はともかくとしても、しかしこうした失態の絶対数は増えていく。



いやまあ、現代社会のトレンドでもあるマスコミ不信な皆さんからすると、いいぞもっとやれな構図なのかもしれないね。
ここで面白いのは、所謂典型的な政治ポジションである、右も左もこの点では手を握ることができる、という点でもある。それこそ右寄りや左寄りというメディアに対してそれぞれ都合のいいように相手を叩くことができるだけだし。
絶対無謬のメディアなんてあるはずもないのだからそこを責めても不毛だという冷静な意見には頷くしかないんですけど。
しかし、だからこそ「反マスコミ」感情は、より多くの私たちを射程に含む、かなり大きなトレンドとなる可能性を秘めている。
世界は「エビデンス? ねーよそんなもん」への反発で一つになれる。



第四権力でもある特権階級にありながら、いくら捏造をしても反省の色を見せない傲岸不遜なマスコミに正義の鉄槌を食らわせてほしい!
――という人びとの純なる願いが一定の閾値を越えると、それを利用するカリスマあるいはポピュリストが登場することになるんですよね。
それは何も邪な願いからではなく、私たちがただただ悪いことをした相手へ(かといって自分自身で直接やりたくはない)懲罰の執行者を求めてしまう正義心故に。
「それはフェイクニュースだ!」と率直に、堂々と怒ることのできる政治家(当人がフェイクしないとは言ってない)を讃えよ!


日本がアメリカのようになるまであと何マイル?