腐ったアメリカの方程式

アメリカはミカンなんかじゃない! ……か?


米政府、パリ協定離脱を正式通告 気候変動対策に暗雲 - BBCニュース
ということでトランプさんが有言実行しちゃったそうで。君主は豹変してくれなかった。

アメリカの離脱により、欧州連合EU)は合意内容を実現するために相当の努力を要することになった。

シンクタンクの国際・欧州問題研究所は昨年12月に発表した報告書で、トランプ大統領による離脱決定はパリ協定に「非常に現実的なダメージ」を与え、「他国が追随する倫理的・政治的な理由」を作り出したと指摘。

米政府、パリ協定離脱を正式通告 気候変動対策に暗雲 - BBCニュース

ザ・腐ったミカン扱い。見事に「社会的ジレンマ」な構図で面白いよねえ。
いやまあ世界全体に影響を及ぼす気候変動問題なんて、その構図そのまんまだろうっていうと今更ではありますけど。
最初にこれを指摘した、『集合行為論』なんかでも有名なハーディンのお言葉を借りれば、

「人間はみな、際限なく家畜を増やさざるをえないシステムに縛り付けられている――かぎりあるこの世界で。共有地の自由を信じる社会で誰もが自己利益の追求に血眼になれば、その先にあるのは破滅である。コモンズの自由が全ての人に破滅をもたらすのだ」

というお話そのままに。


ここで悲観的にならざるをえないのは、一般にこうした「共有地」というのはそれを利用するプレイヤー・当事者たちが多ければ多いほど、その共有物の保全責任の意識が薄くなっていくという点でしょう。
私たちは自分自身の所有物には最大の注意を払うが、共有物にはそこまで気を配らない。
――ということはつまり、宇宙船地球号の乗員でもある私たちが持つその『地球』への共有物としての保全意識というのは、個人所有とは対極の理論上極小の大きさしか持たないことになる。
ぼくという個人は地球の環境に対して75億分の1しか責任がないのだ。そりゃ環境問題に熱心になれないこと自体は不思議じゃないよね。
であればこそ、善意・道徳・倫理などをスパイスすることで「すてきなエコ運動」とイメージ戦略し強行突破していこうというのが現代的トレンドではありますけど。


ちなみに、この意識欠如が意味するのはなにも真っ向からの抵抗運動というだけではなく、むしろ消極的な不参加・サボタージュという意味でこそ、おそろしいものでもあるわけで。
上記事例のようにその共有地に多くのプレイヤーが含まれれば含まれるほど、保全意識の希薄化というだけでなく、こっそりと裏切ることの露見リスクも小さくなる。周りに多くの人が居るのだから、自分一人だけサボったってバレる可能性も低いだろう、と少なくない私たちがこっそり考えたことがあるように。
そんな協調行動を採らないなプレイヤーが目につくようになると、更に「だったら自分も」と同様の行為に走る人たちは更に増えることになる。
腐ったミカンの方程式。


故に、気候問題でも直面しているこれは、私たちお馴染みの社会的ジレンマである。


つまりこのジレンマ――全体の為に協力するか個人的利益を追求するか――を克服するための大きな難問はここにあるんですよね。。
「必ず生まれるだろうその中の裏切り者の扱いを一体どう決めるのか?」
その意味で言えば、このトランプさんの離脱宣言はまだダメージコントロールしやすい問題でもあるわけですよ。だって堂々と「やらない」と言ってくれているんだから。こっそりと内部で着実に増えていく不信感によるサボタージュの連鎖よりは、まだ正面から対応がしやすい。


こうした『裏切り者』の処遇こそ気候変動問題の未来を決めることになる。
もし、これをなぁなぁで済ませてしまうなら、このアメリカの抜け駆けを見過ごせば、「他国が追随する倫理的・政治的な理由」を生むことになる。
アメリカがやる気がないんだから、自分だってやらなくなっていいだろう! なんて。
まさか囚人のジレンマのしっぺ返し戦略のように、アメリカがやったことを自分たちが同じようにやり返すわけにもいかないし。
金の話をしていてはお前たちの未来を守れない 金が無ければお前たちの未来を守れない - maukitiの日記
かくして先日の日記でも引用した「トランプのアメリカを相手にしない」というグレタさんの態度はまぁ子供の論理としてはアリでも、しかし大人の論理としては明確に「間違っている」と言うことはできるんですよ。

 出発前に記者会見したトゥンベリさんは、気候変動の危機を軽視するトランプ米大統領らを念頭に「科学を理解せず受け入れない人は必ずいるが、そういう人は無視する」と述べ「私は行動するだけだ」と決意を示した。

「環境少女」ヨットで英出発 米目指し、排出ガス抑えた旅(共同通信) - goo ニュース

もし、世界最大の排出国であるアメリカの裏切りをただ無視すれば、それを理由に他国が追随してしまうことをどうやって止めることができるのか?
16歳の子供なら無視していいけれども、いい歳をした私たち大人は避けては通れない・考えなければいけない政治の問題ってそういうことだよね。


ちなみに最もスタンダードでシンプルな方法は、そうした裏切り者に『懲罰』を与えることであります。
まぁこれはこれで、なら一体誰が、どのような権能で、どの程度の重さの罰で、懲らしめるのかという経済学や社会心理学だけでなく国際関係までをも巻き込むことになる更にめんどくさい(事実上解決不可能)な問題が待っているわけですけど。
一部の団体がやっている、記グレタさんの『怒りの言葉』の偶像化神聖化ってこういう構図を強引に突破する為のさえた方策の一つでもあるんですよね。そうやって人工的に増幅させた彼女の影響力を使って、相手に『恥辱』を与えることで疑似的な懲罰、あるいは更なる裏切り者増加の抑止力として使う。
――グレタさんのような子供に怒られるなんて君らは恥ずかしくないのか? なんて。
個人的には現代世界ではもうあんまり上手くいく方法だとはちょっと思えませんけど。




「辛いことがあって、あちこちぶつかっていれば、そりゃどこか腐ってくる。だが私たちはミカンを作ってるのではない、人間を作っているのだ。人間の精神が腐るということ絶対ない」
……うーん、ないかなあ、ほんとにい?
トランプにとっての金八先生はどこだ。




気候変動問題における社会的ジレンマの克服について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?