政党「何者だ!」  独裁者「民主主義者です」

政党「よし通れ!」



【英総選挙2019】 なぜ政党というものがあるのか - BBCニュース
昨今はすっかり影の薄いというか、ブリグジットでほんともうこの世の地獄みたいなダメな所ばっかり露わになっている『政党』についての解説。

イギリスでは12月12日に総選挙が行われる。

選挙戦では政党が話題の中心になりがちだが、現在のイギリス政治で政党というのは実際にどういう役割を果たしているのか。

【英総選挙2019】 なぜ政党というものがあるのか - BBCニュース

うーん、……解説?




ただ『政党』繋がりのお話としては、上記BBCの動画では言及されていませんでしたけども、むしろ「今の時代だからこそ」その重要性が高まっている、という見方は民主主義を愛する自称リベラルな僕としては強く思うところではあるんですよね。
つまり、過激主義やポピュリストひいては民主主義制度そのものを破壊しかねない未来の独裁者登場への抑止力として。


この辺のお話は、『民主主義の死に方』でレビツキーとジブラットが述べていることそのままでもあります。
そこで著者は、失敗事例(その最悪事例としてはヒトラームッソリーニの登場)と成功事例(フランスのルペンやオーストリアのホーファーの阻止)など幾つかの事例を挙げながら、民主主義制度が独裁者の登場を抑止してきた要因について、有権者の意識ではなく既存の『政党』こそがその最大のハードルとなってきたと述べています。
私たち有権者の民主主義への信仰がそれを阻むのではなく、むしろ私たちはしばしば独裁的性向を持つ候補者を支持することすらある。
そこではむしろな政党こそが、「非民主的」候補者選抜というプロセスを経ることでそれを抑止してきた、と。
『政党』が機能するというのはつまり、本邦でもそう信じられているように老練な既存政治家たち――身も蓋もなくぶっちゃければ年寄りのエスタブリッシュメントたちが、いつものやり方に従い安定的・妥協的な変化しかもたらさないことを意味している故に。
そしてその最新の失敗事例として、上記著書の主題でもある、トランプ政権誕生という状況にまで至ってしまったというアメリカ政治(共和党)における前代未聞の大失敗であると。


オバマ氏、民主党立候補者の「極左傾向」に警告 米大統領選 - BBCニュース
その意味で言うと、このオバマさんの振る舞いは――それに賛同するかは別として――『政党』の古き良き役割、まさに過激な扇動家を排除しようとする機能を正しく果たしているとは言えるんですよね。

穏健派とされるオバマ氏は15日、ワシントンで開かれた寄付金集めの集会で、「現実に根づいて」いない政策を追求している立候補者がいるとして苦言を呈した。

2009~2017年に大統領をつとめたオバマ氏は、「ふつうのアメリカ人」は「現在の制度を完全に壊す」ことは望んでいないと発言。

「この国はまだ、革命よりも改善を求めている」と述べた。

オバマ氏、民主党立候補者の「極左傾向」に警告 米大統領選 - BBCニュース

共和党のように、過激な(それ故にしばしば「アウトサイダー」でもある)扇動家のようになるべきではない、なんて。さすがオバマだぜ。
まぁ世界に冠たるアメリカ民主主義政治の現実としては、それこそまさにライバルの顛末を見てみれば、少なくとも両開きの門の内の一枚はもうガバガバになってしまっているだろうと身も蓋もありませんけど。
そして何よりオバマ政権がそうした土壌を作った要因の一つ、という意味でも。




『政党』の力が弱くなるということは、つまりより私たちの民意が直接反映されやすくなるという寿ぐべき事態はではある、少なくとも一面においては。
概ね私たち日本も含めた、民主主義国家どこでも見られるトレンドだよね。
より民主的な方法で政治家を選ぼう!
――ところが、そうしたトレンドが意味するのは、日本だけでなく上記BBCのイギリスでもひいては世界中ほとんどどこの民主主義国家でもそうなっているように、政党が弱くなるということは、必然的にその未来の政治指導者候補の審査官という「門番」としての役割の弱体化でもある。
レビツキーとジブラットに言わせれば、最も重要な門番が。
悲しいかな、私たちはより民主的であろうとすればするほど、愚かな私たち自身の手で間違った候補を選ぶ可能性が高くなる。
もちろんそれは政党に任せたって可能性はゼロではありませんけど。しかし、まさにその直接の利害当事者である政党内部の彼ら彼女ら自身がよって立つ足場自体を危うくすることはないだろうという当然の予測ができるわけで。


政党に任せるのではなく私たち自身の選択で、首相を、大統領を選ぼう!

政党「何者だ!」 
独裁者「民主主義者です」 
政党「よし、通れ!」

他ならぬ私たち有権者が望むことでその抑止力がガバガバになってしまい、未来の独裁者候補をホイホイと通してしまう既存大政党たち。
かくしてトランプ米大統領は誕生した。


その意味で、トランプ誕生を反面教師とするような、しばしば本邦のリベラルな人たちが遠回しに言う「(自民党に投票するような)愚民に投票させるな!」という意見には――やはり賛成するかは別として――一理あるわけですよね。
しかし同時に忘れてはいけないのは、そうした政治というのはほとんどそのまま、より政党の論理が優先される政治の姿でもある。
まさに旧自民党に似た強固な党政治のような。


古き良き『政党』という非民主的な論理を優先するのか、それとも、より(集団としてはまぁ愚かとしか言いようのない)私たちの民主的な意見をより直接に反映すべきか。


現代の民主主義社会に生きている私たちが問われている根幹の問題の一つとは、こういうことだと思うんですよね。
自由が過ぎれば大衆迎合なポピュリストが生まれ(そして民主主義政治の制度自体をも損ないかねない)てしまうし、かといって締め付け過ぎればまさにその反対側の極北には「中国的民主主義」のような世界が待っている。



私たち自身の良かれという民主的制度への期待と、そしてネットの発達で、よりアウトサイダーやポピュリストが私たちの社会に入り込みやすくなった現代の民主主義政治について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?