香港の重要度についての認識ギャップが生む――かもしれないもの

あるいは「そして、最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない」な実例がまた一つ。





香港 区議選で圧勝の民主派 政府への圧力強める | NHKニュース
香港区議選の結果が出ていたそうで。

24日に投票が行われた香港の区議会議員選挙は、18の区議会の合わせて452の議席をめぐって争われ、複数の香港メディアによりますと、政府に批判的な立場の民主派がすべての議席の80%を超えて圧勝しました。

選挙結果を受けて、区議会で最大勢力に躍進した民主派の政党「民主党」のトップは25日、記者会見し、「一連の抗議活動以来の香港市民の民意の表れだ」と述べ、政府に対し警察の対応を検証する「独立調査委員会の設置」など5つの要求の実現を求めました。

香港 区議選で圧勝の民主派 政府への圧力強める | NHKニュース

この得票率85対15という数字は妙に生々しくて、それこそ「健全な」民主主義選挙として出る数字としてほとんど完勝に近い状態っぽいのが面白いよね。
ダメな事例として100%とか99%の信任とかやっちゃう頭ハッピーな独裁政権があったりしますけども、今回の香港の結果って逆説的に――メディア支配や立候補妨害などはともかくとして――概ね投票自体は公正に行われたことの証左に見えてしまう辺りが特に面白いです。


香港区議選:中国共産党は親中派の勝利を確信していた(今はパニック) | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ともあれ、このニュース自体というだけでなく、更に面白いのがこの「選挙敗北を受けての北京の反応」の報道だったんですよねえ。

香港で長引く抗議デモは連絡弁公室にとって大きな失態であり、「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)説」は彼らにとって、名誉挽回のための策だった。この説を裏づける資料のみを中国側に提出し、否定的な材料は全てもみ決していたのだろう。

だがもちろん、共産党指導部が一つの情報入手経路にだけ頼るということはない。かつて清の皇太子はイギリス軍との戦いに「勝った」と皇帝に嘘の報告をした。旧ソ連の農民たちは、存在さえしない作物の収穫を報告した。独裁体制において、情報にまつわる問題はつきものだ。共産党もそれは自覚しており、情報は複数の手段を使って入手している。時には真実を見つけ出すために、意図的に非公式な情報源を用いており、国営新華社通信のスタッフなどが作成する内参(内部参考資料)もその一つだ。

問題は、ますます疑い深くなってきている習近平体制の下では、こうした内参さえもが、その内容を「指導部の望む情報」に合わせるようになっていることだ。

香港区議選:中国共産党は親中派の勝利を確信していた(今はパニック) | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

勝った気でいたとかそれマジ。私たちもいつかどこかで見たような『大本営発表』っぽくてちょっと親近感。遠すぎた香港。
この21世紀の令和な時代においてすら、またもやフィクションのディストピア世界でのあるあるネタっぽい構図に陥っていて、改めて現代中国社会こそが私たちの未来像の一つだということを感じさせてくれるよなあと。




こうした中国政府の『香港』への対応がこうなっているのも、ただ無能さや杜撰さあるいは忖度というよりは、香港という存在の「重要性の低下」という構図からなのだろうなあとは少し思います。
既に国家として経済発展を遂げた中国にとって、かつての希少な「特別な区域」だった香港の存在価値の低下。
重要性が低いからこそ、中央への報告の真剣さは薄れ、正確さよりも別の論理が優先されていく。
あるあると言えばまぁ私たちのミクロな社会でも見かける、人間社会の常ではありますよね。
それが今回の騒乱の背景にあるとこれまでの解説や報道も言われていましたけども、まぁそういう中央政府の態度であればこそ香港軽視の姿勢がそのまま、このように「現実が存在しない報告」にもなってしまうのは無理はないよねっていう。




ところが、中国政府にとっての香港価値の低下という「内」の論理とは反比例するように、「外」である私たちにとっての『香港』の存在価値はむしろ増大している状況になっているという皮肉な構図。
CNN.co.jp : トランプ大統領、香港人権法に署名 中国「あからさまな覇権行為」
中国が報復を警告、トランプ大統領 香港人権法案に署名 - ロイター
そのギャップがこうして、内政干渉とリベラルな国際秩序の対立構造へと収斂していくのは、国際関係スキーとしてはやっぱりwktkが止まらない時代だなあと。
いつだって歴史的な外交大事件とは、そうした同じモノを見て「相手との認識の差異」を見誤ったり誤認した結果がもたらしてきたのだし。


中国が最早重要ではなくなった『香港』を軽視しその扱いがぞんざいになっていけばいくほど、しかし欧米世界では『香港』の価値が高まっていく。
はたしてこの「内」と「外」の認識のギャップは、今後一体何を生んでいくのでしょうね?


がんばれ香港。