「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」の真意とは何か問題

カミュ的人間賛歌。


「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」の真意とは? | 日刊SPA!
これはまた懐かしい、いや新作が出るらしいのでタイムリーではあるのか。
以下リアルタイムでは楽しく見ていたものの、もう割と記憶曖昧なので解釈違いがあったらごめんなさい日記。


 このコードギアスを知っているなら、誰でも知っている名ゼリフがある。それが第1話で自分を殺そうとする神聖ブリタリニア帝国の兵士に対して、ルルーシュが放つ「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」というセリフだ。

 私はこのセリフを初めて聞いて何年も経ってから、とても心を揺さぶられるようになった。そのきっかけになったのは、仕事として始めた人生相談だった。人生相談という仕事は「こうした方がいい」とアドバイスすることではない。相手が言いたくても言えないでいる本音を受け止めるのが仕事だ。

 そして、その時に必要なのが、自分も本音を打ち明けることだ。自分の本音を隠しておきながら、相手の本音を聞き出そうとするのは、虫のいい話だ。そして、そうした心づもりは必ず悟られてしまい、相手も本音を打ち明けようと思わなくなる。それでは意味のある人生相談にはならない。

「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」の真意とは? | 日刊SPA!

うーん、まぁ、そうねえ。
「『真意』とは何か?」と大上段からタイトルされるとちょっともにょってしまいますけども、まぁ上記のように「対等な立場として臨む」というお話も解らなくはない解釈ではあります。



有名なその発言の真意について、個人的にはその源流にはカミュの『反抗的人間』があるとは思っていますけども、

昨日の日記でも触れましたけど、マイケル・ウォルツァー先生*1はコソボ紛争を例に挙げて「空爆じゃマジ意味ないから」と仰っています。
その著書『戦争を論ずる』の中で、カミュの『反抗的人間』から「ひとつの命はひとつの命で支払わなければならない。そしてこのような二つの犠牲から一つの価値が生じてくるのだ」という言葉を引用して、リスクなき武力介入の一つの形である空爆の失敗を説いています。そうした『リスクなき介入』は結局の所、コソボが証明したように*2地上で起きている虐殺を止めることができないのだと。他者を助ける為にはリスク(地上で戦うこと)が必要であると。

「違法」じゃないし「正当」なんだけど・・・・・・ - maukitiの日記

「ひとつの命はひとつの命で支払わなければならない」というカミュの思想が。


その『反抗的人間』で語られているテーマって共産主義政権の弾圧を念頭にした、つまるところ巨大政府や権力装置によってもたらされる戦争=大量虐殺への反対、というお話でもあります。
ここでカミュのそれが現代リベラルな思想に続くモノとして傑出していたのは、一方で「大義」や「正義」そして「革命」の為だからといっても、そうした大量殺人を伴うような行為にも明確に反対するべきだ、という点でもあるわけでしょう。
人間の生命の価値こそ追求すべきモノである。
――その極北には「もし一人を殺すのであれば、その後に自殺しなければならない」というある種の逆説的なテロルな思想が存在してもいるんですが。
個人が感情的に殺人を犯すのとは違い、政治的・宗教的イデオロギーによって動員されて行われる大量殺人は、だからこそあるべき人間の道を致命的に外れている。
転じて、単純に巨大権力が行うそれに『反抗』するだけではなく、正義の追求や(暴力的)革命的状況における殺人の許容にも我々は同様に『反抗』すべきである。
殺人をも許容しかねない革命という一足飛びの手法ではなく、地道な反抗の積み重ねこそが、我々が追求すべき人間の姿である、と。
いやあカミュってすばらしいことを言っているよねえ。
まぁそうした一足飛びの革命を否定する煮え切らない態度が、急進的なサヨクな人たちから大きく批判されてもいたんですけど。
21世紀の現代社会を見ても、まるで成長していない私たち……。



ともあれ、まぁそうした政治哲学というのは、物語が進みギアスを使い続けることでついに皇帝となり、個人だけではなく大量の人間を間接的に操作・支配しようとしてきた(=故に世界を変えられる)彼のやっていたこととは真逆な思想ではあります。
ただの反抗ではなく、まさにその言葉の生みの親が懸念したはずの英雄的行為へ。
そして彼が行った数々の大量殺人は、親しい知人たちの死の悲劇によって清算されていく。
そこに生命価値こそ最重要であるという哲学はまったく存在しない。
物語の序盤では「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」なんて言葉を使っていた彼が、いつしかそうやってまったくその言葉とはそぐわない方向へ転向していく疑似ピカレスクな物語となっていくからこそ、あの作品がアニメ史に残る名作だと言われる所以なのかもしれないね。


いやまあ千代ちゃんが身も蓋もないことを言ってしまうのかもしれませんけど。


「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」の真意とは何か、について。
みなさんはいかがお考えでしょうか?