民主主義政治の危機の歴史がまた1ページ増えたよ

世にも奇妙な(強固な二大政党制の終わり?)な物語。また珍しいモノをリアルタイムで見てしまった感。


英総選挙 保守党圧勝 専門家「労働党自滅選挙」 | NHKニュース
自滅というのはうなずくしかないお話。
本邦でもまさに現状のアベ一強を生んだ原因としての「旧民主党の失態ガー」と言うと――実際にどうだったかはともかくとして――まぁ概ねその通りだと思われているわけだし。それは多数の無党派有権者たちの投票行動という意味でもそうだし、悲しかな元民主党所属の議員たち自身ですらその後継を敢えて名乗ろうとしない時点で、事実上それを認めてしまってもいる意味でも。

イギリス政治に詳しい東京外国語大学の若松邦弘教授はNHKのインタビューで、「与党・保守党が大勝したが、実は、得票数はあまり伸ばしていない」と指摘したうえで、「保守党の得票数の伸びより、最大野党・労働党が得票数を減らしたことが目立った選挙だった」として、「労働党自滅選挙」だと述べました。

労働党自滅選挙」になった理由については、有権者の最大の関心がEUからの離脱の問題に集まる中、労働党内ではEUからの離脱方針をめぐって意見が割れてしまい、明確な方向性を打ち出せなかったこと、離脱の問題から目をそらすため、電力や水道などを国有化することなどあまりにも現実離れした経済政策を打ち出したことを挙げました。

英総選挙 保守党圧勝 専門家「労働党自滅選挙」 | NHKニュース

元々の支持層であったはずの労働者層が、しかし彼らこそがブリグジットに賛成していたことの矛盾を受け止められなかった結果、というのが個人的な感想かなあ。
そしてその矛盾を直視できなかった故に、それ以外の斜め上の方向を目指すしかなくなってしまったコービンを中心とした労働党上層部。
リベラル政党であることこそ存在意義であったはずの、彼らの凋落。
いやまぁ(今とは逆により中道を目指していた)ブレアの時からそうだっただろうというと身も蓋もありませんけど。しかしイギリス労働党が選挙で最後に勝った時がそのブレア政権の時代というのがまた皮肉だよね。
――といってもまぁその矛盾=本来支持層であった中間層以下の労働者たちが、リベラルな党上層部という一方で、しかしグローバル化や移民を拒否するようになった旧来支持層とで、分裂状態なったリベラル政党というのはまぁ絶対にこの労働党だけの問題ではないので、彼らだけが特別に無能だったと批判するのもあまりフェアではないでしょう。
しばしば彼ら彼女らはマイノリティ保護という所に活路を見出すようになったものの、でも結局それは見捨てられた人々を救うことを意味しなかった。
それは結果としてトランプ当選を許すことになった米民主党でも見られた光景だし、あるいは私たち日本に以前あった旧民主党のお話でもある。極右や極左が登場してそうした票を掻っ攫っていくのが、こちらもまた現代民主主義政治で見られるグローバルなトレンドでもあります。


私たち日本はともかくとして、しかし民主主義政治の歴史においてほとんど常に先頭を走ってきたはずのアメリカやイギリス、彼らのその現状について。


「ホント...世界(赤文字で強調)て住みづらくなっちゃった...」 - maukitiの日記
以前の日記でも書きましたけど政治的自由を継続的に監視してきたNPOである『フリーダムハウス』だけでなく、
【民主主義インタビュー】アメリカ・ファーストの民主主義を考える/ ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)
一般に民主主義政治研究における第一人者とされるラリー・ダイアモンド先生も、現状とはそのまま「民主主義政治の後退期である」と述べているんですよね。
冷戦が終結し『歴史の終わり』だったはずの民主主義政治の黄金期は既に過ぎ去り、今はその後退期である、と。
それは単に民主主義政治の新興国が独裁に舞い戻るという意味だけではなく、(私たち日本も含む)欧米を中心とした旧来からの諸国で起きている民主主義政治の危機という意味でも。

まず、国内的に起きていることの理由は、経済的な状況の変化、色々なことが自動化されたり、グローバリゼーションによるものでもあります。また、先進国では、経済成長の鈍化に苦しみ、世界の多くの国で所得格差が広がっています。さらに、人口面での問題では、特に韓国、日本、台湾では高齢化が進み、福祉的に色々なところで問題が起きています。職も減り始めています。それは、ロボット化や自動化が進み、また、国際貿易によるプレッシャーがかかることで、職がだんだんと失われているということです。実質所得も横ばいとなり、米国も含め所得が上がらない状況です。また、国際金融の面で、2008年、2009年の大きな金融危機からやや回復の兆しもあるのですが、まだまだそのスピードは上がっていません。数々の民主主義国家の中で、特に経済的な状況から、将来への不確定さを懸念しています。自分の子供たち、さらにそれ以降の子孫が、自分と同じような経済的な豊かさを経験できるのかということへの不安を感じています。

【民主主義インタビュー】アメリカ・ファーストの民主主義を考える/ ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)

悲しいかな多くのリベラルな中道左派政党が、この不安に真っ向から答えられないまま中間層の支持を失いつつある。
まぁ今回のイギリス労働党の敗北は危機の典型例だと言えるんじゃないかな。彼らはその不安に応えるのではなく、むしろより解りやすいマイノリティ保護――別にそれ自体が悪いわけでは絶対にないものの――に注力してしまうことで、従来からの支持層すら失っている。
いやあさすがラリー・ダイアモンド先生だよね。
時代の変化というか、まだその模範解答となるべき解答を誰も出していない過渡期の時代ということなのでしょう。答えを探して右往左往している世界中のリベラルたち。そこで気候変動や(経済ではない)弱者保護に走ってみても、ぶっちゃけ答えは見つからないんじゃないかとは少し思ってますが。


トルコや香港で見られるような民主主義政治の敗北というだけでなく、成熟していたはずの民主主義政治社会内部でも起きているその危機の進行。
私たちの愛してきた民主主義政治の、二重の危機。
その危機の一つを象徴するかのような、長くイギリスの二大政党政治の一翼を担ってきたはずの、労働党の劇的な敗北について。


みなさんはいかがお考えでしょうか?