絶対正義を求めてしまう人たちのよくある陥穽

あるいはカミュが「無垢への郷愁」と呼んだ何か。



韓国・文在寅政権──モンスターになってしまったモンスターハンターたち | 崔碩栄(チェ・ソギョン) | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
うーん、まぁ、そうねえ。ミイラ取りがミイラというか、深淵を覗きこんでしまった人が深淵から見返されてしまったというか。
まぁ昔から『絶対正義』を革命などによって追求する人たちの陥穽として、よく指摘されるお話ではありますよね。


あるいは「マルクスが夢見た共産主義が失敗した理由」ともちょっと似ていて。アレが失敗した理由はまぁ色々あったりするんですが、その有名な一つはそもそも「(成果が同じなら)できるだけサボろうとする人たち」を想定していなかった所にあるわけですよね。
行動経済学という地平を知った今の現代人たる私たちから見るとまぁバカみたいなお話ではありますけど。
できるだけ手を抜きサボろうとする私たちを(その成果によらず)無理に働かせようとする→後はもう国家権力による強制力を行使するしかない→巨大な国家機構の必然的誕生→不正と腐敗の温床へ。
いやあ黄金パターンだよね。
終末だというのにあなたは一体なにをしてるんですか? 忙しいわけないですよね? だって世界の危機ですよ? - maukitiの日記
前回日記でも触れたフリーライダー問題と直結したお話ではありますけども、グレタさんの言うような危機的状況な環境保護賛同にしろ、共産主義にしろ、あるいはリベラルな絶対的正義にしろ、そこで必然的に生まれるフリーライダーのような『裏切り者』をどのように対処するのか、というのは社会的動物である私たち人類の永遠の政治テーマでもあるわけですよ。
その正義を絶対的としてしまうと、そお価値観に同意しない裏切り者への扱いは苛烈になっていく。
古今東西の所謂『左派』たちがいざ権力を握ると、恐怖政治や全体主義に走ってしまう要因はこうした所にあるわけでしょう。


皮肉にも彼ら彼女らは、自身の信じる『正義』に確信が人並み以上にあるからこそ、その裏切り者への弾圧が正当化されることになる。
何も彼ら彼女らが特別に邪悪であったりサディストだからそうなるんじゃないんですよ。
その正義への確信の強さこそが、そのまま裏切り者への扱いの苛烈さと直結する。
いやあせいぎっておそろしいよね。



ともあれ、話を戻して。個人的にとっても皮肉で面白く、そして象徴的だと思うのがこの部分だと思うんですよね。

軍事政権でさえ弾圧しなかった大字報に関する今回の起訴は、その意味においても韓国社会にとって衝撃的だった。ことに今、文在寅政権の主軸を担っているのは他でもない、軍事政権下に於いて大字報を書き、貼り出すなど、広く活用してきた人々だ。文在寅大統領自身も学生時代民主化を要求するデモに参加し逮捕された経験があり、大統領秘書室の人員や長官等の多くが、学生時代には大字報という土台の上で民主化運動を行ってきたのだ。

韓国・文在寅政権──モンスターになってしまったモンスターハンターたち | 崔碩栄(チェ・ソギョン) | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

彼らはかつての壁新聞の当事者たちでありながら、今それを禁止しようとしている。
つまりそれが意味するのは、逆説的に『効果』が解っているからこそそれを禁止しようとしているという合理的な振る舞いでしょう。
もし、そもそも当事者たちの実感として効果がないと感じていたならばそもそも無視しておけばよかったわけだし。
――ところが彼らは、まさに軍事政権時代が「解っていなかった」故に放置していたようなそれを、正しく禁止しようとしている。


皮肉にも報道のチカラを信じているからこそ、権力を握った今になって蛮行に走る人たち。
いやあ経験に正しく学んでいる、かつての軍事政権よりもずっと賢い人たちだよね。何しろ過去の彼らはそこを甘く見たからこそ、敗北したんだから。
その実体験を元にするのならば、弾圧することこそやはり権力者として正解である。


いや、もしかしたら自分たちの『実体験』から、それにはどうせ効果ないからと父権主義的にそんな無意味なことをやめさせようと、あるいは「風説の流布」「デマ」の危険性を認識しているからこそやっているのかもしれませんけど。
まぁ現状を見る限りその可能性は薄そう。


絶対的正義を追求しているからこそ、それに背きかねない私たち愚民たちの「自由」に恐怖しそれを縛ろうとする、善意の権力者たち。
誰もがそのすばらしい正義や真理に賛同してくれたらいいのにね。
――しかし愚かで自由な私たちは、幾ら正義や真理を説かれても、万人その全てが等しく同意するわけでは絶対にない。


ならば、その同意しようとしない『裏切り者』への罪の重さは一体どれくらい?


みなさんはいかがお考えでしょうか?