ポピュリストになるには良識がありすぎる

小さくまとまっちまったのは悲しみか。



新聞記事をランク付けで掲示 立民・安住氏が謝罪 ハナマル、くず…産経は「論外」 - 産経ニュース
立民 国会内の部屋に新聞記事“評価コメント”を掲示 | NHKニュース
おもしろおかしいメディア批評があったそうで。

立憲民主党の国会内にある部屋の扉に、新聞各社の政治記事を評価したコメントが書き込まれた紙面が一時張り出され、報道各社は、取材規制とも受け取れるとして問題視しました。安住国会対策委員長は、「冗談のつもりで、取材規制をしたつもりはない」と釈明しました。

立憲民主党の部屋の扉に張り出されたのは、新聞6社の4日朝の朝刊の政治面で、ピンク色などのペンで、記事に対する評価が書かれています。合意に至らなかった国民民主党などとの合流について、「それでも結集を諦めるな」と題して書かれた記事には、「すばらしい」というコメントが、また、3日の予算委員会での「桜を見る会」をめぐる野党の質問の記事には花丸のマークが、それぞれ記されています。

一方、自民党の岸田政務調査会長の質問を取り上げた記事には、「くず 0点 出入り禁止」というコメントのほかバツ印が、「政府に注文 自民存在感」という記事には「論外」と書かれています。

立民 国会内の部屋に新聞記事“評価コメント”を掲示 | NHKニュース

きちんとその評価基準が明らかになっているのであれば、ついでに政治家でないのであれば、まぁそれ自体はよく見る光景ではあるでしょう。
ネット上の私たちだってしばしば(公に発表するかはともかくとして)「グリフィンドールに10点!」な独自基準なノリで右だと左だのと各新聞を論評しているわけだし。
ただ自党に都合がいいことがあるから高得点だとか、あるいは自分に批判的・親自民だから赤点だとかそういう愉快な理由だとまぁ鼻で笑うしかありませんけど。


今回の行為についてコメントするならば、二重の意味でバカなことをやっているんですよね。
「まともな(ここは後述でも触れる)」政治家としてやるべきことではないし、更に言うと、どう見てもあの魔法学校の教師たち並にガバガバな評点しかしていないという意味で。
せめて書いてあることがもっとウィットに富んで面白いことを書いてあったらまだマシなのに。
その意味では「政治家なのに」新聞批判をやってしまった愚かさというよりは、こんなクッソつまんないことしか言えなかった事の方がむしろ致命的なんじゃないかな。



ただそれよりも更にバカなことをしでかしているのは、その釈明として「規制するつもりはなかった」という意図を持ち出していることでしょう。
いやあ本当にズレていますよね。
政治家がメディア批判を行う最大の理由は彼らを萎縮させ自主規制させることにあるわけで。別に「ほんとうに」「マジで」法で規制する必要すらないんですよ。
ミクロな個人間でもDVな関係が既に確立している場合のように、ただ拳を振り上げる様を見せつけるだけでいい。
そこで重要なのは、やった側の意図ではなくてやられた側がどう受け取るか、という点に尽きる。
まぁ上記記事を見る限りメディアの反応はそこまで気にしてないようにも見えるのでその点はセーフなのかもしれない。
それはただ彼の良識が信頼されているというよりは、ただただ影響力のない政治家として舐められている感がありますけど(その逆の構図が自民党政治家でもある)。
それはそれでどうなの。





一方で、これまでも当日記でも何度も書いてきましたけども、まぁ幾ら正論を述べたところで「メディア批判」というのは私たちの現代社会において、一周回って一部――どころか少なくない有権者たちにウケるネタでもあるわけですよ。
トランプ政権の誕生と、これまでの支持は、まさにその戦略の有効性についての生きる証拠でもある。
「あの新聞・テレビニュースたちはウソをついている!」
「あいつらが言うのはフェイクニュースばかりだ!」
それこそ最近の本邦でも週刊誌などで定番ネタとして消費されるようになりつつもありますけど、少なくとも一面の真理を突いているこの言説は、まぁ私たち多くの有権者たちのココロの隙間入り込んでしまう。


だから今回の安住さんは、バカなことをしていると切り捨てる一方で、少なくとも政権奪取の一つの手法としてはとても合理的なことをやったと評価することはできるんですよね。
だって私たち有権者たちが、傲岸不遜なマスメディアたちに鉄槌を食らわせてほしいと願っている、それ自体は否定しようのない事実だもの。
さすが野党第一党である彼は世論が読めている!


……まぁあっさり取り消しちゃったんですけど。
本邦の「次のトランプ」物語のおわり。





ということで、ここで「いいぞもっとやれ!」とはならない辺りが、良い意味でも悪い意味でも、立憲民主党という政党の限界なのかなあとは少し思ったりします。
――それこそ昔は「高速道路無料!」とか「最低でも県外!」とか今回のメディア批判に負けず劣らず割とポピュリズムにぶっ飛んだこと言っていたのにねえ。
一度政権を獲ったせいなのか、もうすっかり丸くなってしまって。
若い頃はあんなにイケイケだったのに。
もうそれじゃポピュリズムな票をかっさらって政権交代なんてできませんよと余計なお世話を思ってしまうほどであります。


その意味でいうと、頭のぶっ飛び具合ではトランプ的なポピュリストにより近いのは、立憲民主党ではなく『れいわ』の方だったりするんですよねえ。
いや、すぐに剥がされてしまったのものの、現代民主主義政治における寵児であるポピュリストたらんとしてこうしてメディア批判に足を踏み入れてみようとしただけまだその気概はあるのかもしれない。
まぁ何も考えていないのかもしれませんけど。


はたして、トランプのように『メディア批判』を利用して、日本にも「反マスコミ」なポピュリズムの嵐を吹き荒らすことになるのは一体誰になるのでしょうね?
まぁ既に安倍さんがそうしているという人たちも割といそうですけど。


「反マスコミ言説」という否定しようのない現代民主主義政治トレンドを前提として見ると、
今回の安住さんの振る舞いはその観測気球なのかもしれないとちょっと色々考えさせられるお話だよなあと。


みなさんはいかがお考えでしょうか?