『見えない人間』を見る気のない人間

自らラルフ・エリソンの名作の登場人物になりきるなんて、さすが文化人は教養があるんだなあ!



平田オリザ発言に「何様だ」 他業種引き合いに出し文化政策など支援求める - zakzak:夕刊フジ公式サイト
【更新版】「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん |けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本
ということで前回の通常日記でも少し書いた「今パンが無いなら、来月お菓子を倍作ればいいじゃない」な平田オリザ先生のありがたいお話について。

それから、ぜひちょっとお考えいただきたいのは、製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。

【更新版】「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん |けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

 しかし、この発言がネットに火を付けた。《自分のことしか言ってない》《行政にたよる文化が、そもそも「文化」なのか》《製造するのだってそんなに簡単じゃない》といった批判が飛び交っているのだ。

平田オリザ発言に「何様だ」 他業種引き合いに出し文化政策など支援求める - zakzak:夕刊フジ公式サイト

しかしまぁさすがに彼が悪意や差別意識、あるいは優越感があってそれをやっているとは思わないんですよね。
ただただ、文化人ではない「普通の」人たちへの理解が欠けているだけ。
無知に無知であるだけ。
かといって、もちろん無知それ自体が罪であるわけでもない。
誰だって自分の関心領域・来歴に関係のない分野の知識がないのは当たり前だもんね。ぢっと我が日記を振り返れば……。
だからただ無知なだけだったらまだギリギリセーフなんですよ。
ついでにそれを恥ずかしげもなく公言してしまうことも、浅薄な私たちにはありふれた光景で、敢えて石を投げねばならないような構図でもない。




ここで彼の発言がここまで大きく反発されているのは、無知であることではなく、そもそもそうした市井で平凡な暮らしをする人たちに興味がない、ということをあからさまにしていることだと思うんですよね。
これならまだ「我々には凡人と違い文化継承という崇高な使命があるのだ!」と堂々と宣言された方がまだマシだよね。
だってそれなら少なくともその行為に自覚的であるから。


ただただ「工場で働くような人たち」のことが見えてない、見る気がないだけ。
この人にとって、芸術家や文化人でない彼ら彼女らは、顔のない有象無象だという認識なだけ。


ラルフ・エリソンが『見えない人間』の中で述べているのは、何も直接的な侮蔑ではなくて、そうした無関心の極致にあるような態度こそが被差別な立場にある人びとの尊厳を傷つけている、ということなんですよね。
アメリカ北部にあった黒人への人種差別の極致とは、黒人を無いものとして扱う白人たちの態度である、と。
不当な扱いをすることだけが差別ではなく、そもそも同じ人間だとみなされていないことこそが。


何も悪意があってそれをしているわけではない。
彼は本当に善意から自分の属する文化を守りたいと願い、しかしその過程で自分たちの希少性を強調せんとした為に、製造業を代表する一般の人たちを『見えない人間』として扱ってきたことが露呈してしまっている。
だからそれを無知や差別や線民意識という言葉で表すのはちょっと違うと思うんですよね。

それから、ぜひちょっとお考えいただきたいのは、製造業の場合は、景気が回復してきたら増産してたくさん作ってたくさん売ればいいですよね。でも私たちはそうはいかないんです。

【更新版】「文化を守るために寛容さを」劇作家 平田オリザさん |けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

そこにあるのは見下した態度ではなく、素朴に確信された自明な世界観である。
製造業労働者と演劇人とは、そもそも並べて比較する前提にすらない。
彼らと自分たちは(仕事をしているという意味で)同じ人間ではない、なんて。




いやあコレが演劇作品だったら社会風刺としてこれ以上ないほど上手くできた作品だよねえ。
自らその『見えない人間』を見る側を演じているなんて平田オリザ先生ってすごいね!


まぁやっぱりこの人に限った話ではないとは思いますけど。「たかが電気」を筆頭にいっぱい居たよねえ。
何の後ろめたさもなくそのユニークな世界観を開陳してしまう人たちについて。



みなさんはいかがお考えでしょうか?