ヨーロッパを徘徊し続ける民主主義の赤字という亡霊

およそ北のヨーロッパのすべての権力が、南の恩顧主義を祓い清めるという神聖な目的のために、同盟を結んでいる。




【遠藤乾】支援を渋る豊かな国、募るイタリアの恨み EUの機能不全を避ける道は:朝日新聞GLOBE+
南北の溝は修復困難に、加速する「多極分権」:日経ビジネス電子版
ということでコロナ騒動でも再び表面化してしまった、現在進行形でヨーロッパを徘徊し続ける『亡霊』であります。

EUは、ユーロ危機の際につくった欧州安定メカニズム(ESM)など、すでにある支援の枠組みを今回の危機でも活用する方針ですが、それは国家財政がEUなどの監視下に置かれることを意味します。国家にとっては屈辱的な状況です。イタリアが悪いわけではないのに、北部・ロンバルディアに被害が集中してしまった。すでにこの20年ほどその傾向があったのですが、イタリアでは今、ものすごくルサンチマン(恨み)が高まっています。多くの人が亡くなっており、ユーロ危機の比ではありません。

――南北の溝は、ユーロ危機の時にできたまま、埋まっていないのですか。

埋まらないまま来ています。もともとイタリアはユーロ導入時の為替レートの条件から、不利なところがありました。ユーロの導入以来20年、いいことがないわけです。経済成長はしていないし、実質所得も伸びていません。

【遠藤乾】支援を渋る豊かな国、募るイタリアの恨み EUの機能不全を避ける道は:朝日新聞GLOBE+

まぁ恨みが解消されない理由は単純ではあるんですよね。
だってその怒りを直接向ける先がないから。
少なくとも私たち日本のように本当に有権者たちに『怒り』があれば、選挙でその態度を示せばいいんですよ。


ところがぎっちょん、彼らにはそれがない。いや、全くないと言うわけでもなくて。
かの素晴らしき権限の乏しい欧州議会の議員を選ぶこともできるし、上記でも指摘されているように間接的に国内選挙で反EU政党に投票することもできる。
でも、それだけ。
ユーロ危機の時に明らかになったように、ギリシャやイタリアに住む彼らは幾ら政治に強い不満が生まれても、少なくともEUが係わる分野――致命的な重要な財政問題でもある――では自分たちの意見を政治に反映させることができない。
もちろんEUの官僚機構は間接的には欧州連合理事会を通じて説明責任を果たしているものの、それは決して直接有権者に対するものではない。
ザ・民主主義の赤字。


ユーロ危機では100歩譲としても、このコロナ禍に及んでもドイツやオランダなどの「北のヨーロッパ」が、南の彼らを救おうとしないのはやっぱりそれだけ不信感があるのでしょうねえ。
ユーロの教訓は逆の意味で教訓となっている。
腐敗している=故に財政支援しても我々の税金が無駄になるだけなのだから、やはり彼らを救うべきではない、なんて。


ヨーロッパの南北を分かつ政治的『恩顧主義』の有無 - maukitiの日記
この辺は、ユーロ危機まっさかりな大昔に日記でも書いた、ヨーロッパの南北分断の原因の一つ(かもしれない)『恩顧主義』の有無がやっぱりあるのだろうと思うんですよね。

(ドイツのような国にとっては腐敗しているようにしか見えない)恩顧主義をやめろと言いたいけど言えない人たち。そしてそんな遠慮こそが、実のところユーロ内の彼らそれぞれの心的距離を示しているのでしょう。自分たちは皆違う国なのだからそこまでして彼らを救う義務はないし、そして自分たちは皆違う国なのだから一から十まで彼らの指図を受ける筋合いはない。
その意味で、彼らは救う側も救われる側も、実は同じ場所に立っているのかなぁと。自分たちは皆違う国なのだから、と。今回一連のユーロ危機によって、むしろより強調されてしまった欧州連合の一体性のなさについて。
がんばれユーロ。

七年たってもまるで成長していない人たち。いや、たった七年程度では人の意識が変わるはずもないと言うべきなのか。


「官僚機構への信頼感」が二重の意味でヨーロッパを分断している。
選挙で選ばれたわけではないEUの官僚機構によって見捨てられると感じている人たちと、恩顧主義故に彼らが腐敗から抜け出せそうにないと考えている人たち。


はたして彼ら彼女らが真の意味で同じヨーロッパ市民になれる日は来るのでしょうかね。
みなさんはいかがお考えでしょうか?