暇を持て余したアメリカ人たちの正義の遊び

(2020年版)五月革命かな?


黒人暴行死への抗議、全米に拡大 暴徒化したデモ隊と警察が衝突 - ロイター
CNN.co.jp : 黒人死亡事件めぐるデモが激化、25都市で夜間外出禁止令 米
ということでめちゃくちゃ大事になっているアメリカの暴動であります。


既に指摘している人が何人もいるように、昨日はその一方で、遥か天頂の軌道上では歴史的なスペースXの宇宙船の打ち上げとISSのドッキングで大盛り上がりの一方で、眼下の地上では昔から繰り返されてきた展開でご覧の有様。
期せずして両者がまったく同じタイミングで進行しているのは、同じ国の中に同時に存在している『二つの世界』という感じでとってエモいと思います。
これSFジャンルなフィクションでよく見た光景だ!

(CNN) 米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が警官に首を圧迫され死亡した事件への抗議をきっかけとしたデモが全米各地に広がり、30日には少なくとも25都市で夜間外出禁止令が出された。

事件翌日から5日連続でデモが続いたミネアポリスのフレイ市長は30日夜、市民は略奪や放火に備えて家にいる必要があると呼び掛けた。

CNN.co.jp : 黒人死亡事件めぐるデモが激化、25都市で夜間外出禁止令 米

しかしまさかコロナ対策の失敗を、暴動ニュースという更なる炎上で吹っ飛ばすとは予想外だったよね。
(吹っ飛んでない)
(むしろウィルスは吹っ飛びまくってる)



トランプ大統領SNS投稿 暴動起こしている人たち「急進左派」 | NHKニュース
トランプさんなんかはいつものようにその原因について通常運転をしていますけども、あんまり納得はできないかなあ*1
素人な自分が個人的に説明を考えるのであれば、コロナ問題によってフラストレーションと暇を持て余した人たちの前に、解りやすい可燃性の高い絶対的正義なネタが落ちてきて大炎上、という辺り。





だから世界で最も被害の大きいコロナ禍の真っただ中にありながら、それ故に、アメリカ社会が黒人差別反対ネタで一挙に盛り上がってしまう構図自体は理解できるんですよ。
アメリカの4月の失業率、世界恐慌以降で最悪の14.7%に 米労働省雇用統計 - BBCニュース
世界恐慌以来という、それってもうアメリカ史上最悪というレベルで高い失業率でみんなヒマだもんね。デモに参加するような意識の高い人たち以外にも、(文字通りの意味で)火事場泥棒したい人たちはいっぱいいる。
だからこそマクロな視点では社会の治安と安定の為にこそ、失業率を低く抑えなければいけないとずっと唱え続けられてきたわけで。
われわれヒトは暇になるとロクなことをしないので。


そしてもう一つ、この黒人差別に反対するというのはほとんどもう絶対的に正しい『正義』でもあるから。
ロックダウン解除をめぐって激化する不毛の米イデオロギー対立 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
少し前にもコロナ対策であるロックダウンの是非について、アメリカ社会ではデモがありましたけども、あれと比べてもずっとわかりやすい問題であるのは間違いないでしょう。
それはアメリカの歴史的背景もあって、この複雑怪奇な現代世界においてもかなり希少な反論の余地のない――それこそあの放言暴言しまくりなトランプ大統領ですら例外ではない――絶対的正義の一つであるから。
それをあからさまにされてしまってはもう戦争するしかなくなってしまうよね。
仮に別の敵と戦っていたとしても。他の何かで手一杯だったとしても。


更にこの「黒人差別への反対」というテーマは参加するのも容易な政治的テーマでもある。
ヒマを持て余している人たちと、誰でもまったく簡単に参加できるデモ。
――かくして物語は始まることになる。
そこには私たちが複雑な現代政治を語るうえで避けられない「利害の衝突」や「予算」などを考慮する必要すらない。
ただただ、黒人の人たちをきちんと尊重し、同じ人間として扱うべきだ、と正しく要求するだけ。
なんて簡単なお話。*2
コロナ対策、経済から見るか? 人命から見るか? - maukitiの日記
それこそ私たち日本社会もコロナで直面することになった、人びとの総意を採ることなんてとても不可能な「経済」か「健康」か、という致命的で解答の難しいジレンマ――更にリベラルな社会では「人権」か、という要素も加わったトリレンマに悩まされることはない。
この辺は所謂リベラルな左翼勢力たちが、既存の中間層から貧困層の支持を失っていった構図とちょっと似ていると思うんですよね。
市場システムへの根本的な疑義や、あるいは政治改革を伴うだろう複雑で未だ解答を見出せない経済格差問題に取り組むよりも、人種や同性愛などアイデンティティ差別を中心とした問題解決に取り組んで見せる方が、ポジションとしては色々楽だから。
しかし黒人差別に反対するのであればそんなもの必要ない。正義を成したい気持ちそれさえあればいい。




かくして、コロナで複雑で繊細な専門的取り組みが社会に求められている故に大多数の人たちは置き去りにされるフラストレーションを抱えた、暇を持て余した人たちに、そこにタイミングよく白黒つけやすい参加しやすい政治テーマが降ってきたと。
いやあまるでピタゴラスイッチのようなお話だよね。
どれか一つの要素でも欠けていたらこうはならなかったかもしれない。
でも、そうはならなかった。
ならなかったんだよ、トランプ。


アメリカに神のご加護がありますように。

*1:むしろ説得力ゼロで無い故に、極左だけでなく国外からの「世論介入」「扇動」問題はより厄介な問題を惹起すると思っているけれども、ここでは余白が足りないので割愛。

*2:その一見した参加の用意さは、問題解決の簡単さとはまったく同期しないのが悲劇でもあるんですけど。