いわんや善人をや

昔から続いてきたいつもの国際関係の日常だと言うと身も蓋もありませんけど。




豪で「中国人への多くの差別」 中国政府が渡航中止勧告、対立深まる 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
あ、これ知ってる! 今読んでる『目に見えぬ侵略』でやったところだ! 
タイミングよく現在進行形で起きていることの理解が深まるというのは良書を読むことの素晴らしい点だよね。

華報道官は8日の定例会見で、「シドニーメルボルンブリスベン(Brisbane)やオーストラリアのその他の都市で、中国人に対する差別的な意味合いを含んだ落書きが確認されている」と指摘。

 新型コロナウイルスの影響でオーストラリアは必要性の低い国際便の運航をすべて停止しており、再開のめども立っていないことから、中国政府の渡航中止勧告は象徴的な意味合いが大きい。

豪で「中国人への多くの差別」 中国政府が渡航中止勧告、対立深まる 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

差別に対して厳しい態度を採る多文化社会だからこそ、そこでは(仮に政治工作や浸透が露見したとしても)『我々への差別だ!』というカウンターによって問題を回避することができてしまう。日本ですらその配慮は割とあったりするのだから、あちらではお察しだよね。
中国がこういう圧力をかけているということは、ほとんどそのままそうした圧力に「進んだ」オーストラリアが弱いと見ていることの証左でもある。
面白いというか、中国が狡猾というか、一般の評価としては例えば私たち日本よりもずっと人権先進国=安易に国家と個人を同一視しないオーストラリアが欧米諸国における『弱い鎖』とみられているのは、ほんとうに皮肉なお話だと思います。


一方で私たち日本はというと……、うん、まぁ、昔から色々と見知った関係だったから仕方ないよね。
「中国人がなんか悪いことをしていたら、それはまず背後にいるだろう国家の策謀を疑うべきなのだ!」なんていう後進国しぐさ。
それこそアメリカなんかも、ファーウェイ騒動辺りからすっかりそんな私たち日本人の人権後進っぷりに追いついてきた感ありますけど。


そしてそうした「差別がある」ことの宣伝は、更なる現地の(元)自国民たちの保護の正当性をより強化することにも繋がることになる。
二重の意味で、やっぱり今回の中国政府の渡航中止勧告というのはやはりよく考えられた戦術だなあと。

彼らは街で嫌がらせを受けることより、領事館を恐れていたのだ。
1990年代後半には、シドニーの中国領事館が、ハンソンの脅し*1を使って自らの影響力の下で、中国系コミュニティを団結させようとしてしていたのである。*2

かくして現地社会で受ける差別よりも、そんな強権的な母国政府に捕捉されてしまうことを恐れるようになる人たち。
それこそ脱北者北朝鮮なんかでは想像できますけども、まぁ現代中国でもこのザマだというのは色々と考えさせられてしまうお話だと思います。
おそらく、今後の米中関係の狭間で生きていくだろう人たちにとって、こうした究極の二択というのはより日常の光景となっていくのでしょう。


基本的には移住を禁止していたかつての米ソ冷戦時代とは違い、むしろ積極的に移住を推進しそしてそうした国外の人たちをも管理統制しようとする現代中国について。
前回とはまるっきり違う光景が広がろうとしているのはwktkするよねえ。


(もちろんそれ自体は素晴らしい)多文化社会の先頭を行っているオーストラリアだからこそ、中国のような国家から標的にされてしまうジレンマ。
難民や移民を無限に受け入れようとした結果多文化の維持に苦しんでいるヨーロッパを見ると、まぁやっぱり共通のトレンドなのかもしれないね。
正直者がバカを見るというと冷笑が過ぎるかもしれませんけど。


善人ゆえにより一層苦しむ人たち。
みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ポーリン・ハンソン - Wikipedia

*2:『目に見えぬ侵略』P65