「香港衆志の敗北」は「連帯の勝利」のような歴史のターニングポイントとなるか?

ポーランド『連帯』の勝利が生んだ「政治的自由の要求が独裁体制を打破する」という神話の終わり。


(インタビュー)米中「第2次冷戦」 歴史学者、ニーアル・ファーガソンさん:朝日新聞デジタル
ニーアル・ファーガソン大先生のすごく面白いお話。

 米国と中国はこれまで、ライバル関係にありながらも貿易と投資を通じて密接につながってきた。しかし、コロナ禍や香港を巡って対立が深まり、経済のデカップリング(切り離し)が進み始めた。いまや米中は「第2次冷戦」に入ったのだ。ニーアル・ファーガソンさんは、そう主張する。

(インタビュー)米中「第2次冷戦」 歴史学者、ニーアル・ファーガソンさん:朝日新聞デジタル

個人的にその冷戦がはじまる切っ掛けが香港というのが、歴史の皮肉っぽくてとても面白いと思うんですよね。
「本当に怖い。これから何が起きるか分からない」“民主の女神”アグネスさんが香港国家安全法の恐怖を語る(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース
私たちがコロナ等々で忙しくしている内に、いよいよ香港ではカウントダウンが始まりつつある「一国二制度のな香港」の終わり。


つまり、政治的自由を求めていた現地の反政権な人たちが敗北することで、その第二次冷戦な対立構造が固定化していく構図。
――これって「第一次冷戦」の終わりの始まりとなった、ポーランドにおける『連帯*1』をはじめとする政治的自由を求める勢力の勝利が契機となって民主化運動が広まっていく構図、の過程を逆回転させているようでとっても面白いなあと思うんですよね。
一度は非合法化され逮捕されていく彼らが、民主化運動と大規模なデモと合法化を通じ、やがては自由選挙を通じて議席を得て政権奪取に成功する。
香港で政治的自由を求める彼ら彼女らがまさにモデルの一つとしていたはずのそれは、結局、見事に失敗しつつある。
世界の歴史が逆回転していく感じ。
香港というガラスでもぶち破ったのかな?




共産主義陣営に対抗する方法として、ただ現実主義的なバランスオブパワーではなく、現地にある政治的自由を求める運動を後押しするアメリカ。
一般にそうした外交政策を明確に打ち出すようになったのがレーガン政権時代であったわけですけども、彼らのその確信を強めたのが上記ポーランドでの成功でもあったわけで。
それまでは反共軍事同盟を優先させようとフィリピンや韓国のように独裁政権でも、親米だからと概ね容認してきたレーガンの豹変――あるいは変節。
マルコスの退陣要求というレーガン外交の大転換。
実際にその後の歴史を見れば解るように、その変化を生んだポーランドでの民主化勢力の勝利は、その後東欧全体に広がりソ連を揺さぶっていくことになる。


こうした成功体験が冷戦後に超大国となるアメリカに「民主主義の守護者」という幻想と神話を形成していくわけですけども*2、まぁそうした守護者としての神話が終わることが再び冷戦構造へと回帰させている、というのはほんと「韻を踏む歴史」だよねえ。


『連帯』が勝利がすることで第一次冷戦は終結へと向かい、そしてその40年後、今度は『香港衆志』が敗北することで第二次冷戦が始まろうとしつつある。
まぁでも、まさにソ連崩壊という先駆者が嵌まった落とし穴から正しく教訓を踏まえて行動しているとされる勤勉な中国共産党政府、という構図を考えると約束された敗北だったのかもしれないね。
香港の国家安全法は「内政問題」という誤った主張  WEDGE Infinity(ウェッジ)
その意味で言えばただの「内政問題ではない」からこそ、中国政府が折れなかったのも理解できるんですよね。ポーランドの連帯から始まる顛末を考えると、そんなこととても言えない。
共産党の彼らは正しく歴史から学んだことで、民主化勢力を甘く見ずにひたすら彼らを弾圧し続けた。



今後再び私たちは「政治的自由を求める運動が独裁体制に勝てるワケないじゃない!」というのが当たり前な時代になっていくのかもしれないね。
1980年代まではそうした認識こそ当たり前だったのだから。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:独立自主管理労働組合「連帯」 - Wikipedia

*2:ちなみにこの成功体験が後にネオコンを台頭させる要因となるんですけども、まぁそれはまた別のお話。