国際機関への(『腐敗』という)目に見えぬ侵略

民主的手法を採るからこそロビーに敗北してしまう人たち。



元ICANN事務総長が「.org」ドメインを買い取った投資会社の共同CEOに就任 - GIGAZINE
そういえばインターネット資源管理団体であるICANNの「.org」売却騒動がまた面白いことになっているそうで。
「.org」ドメインの管理団体が設立からわずか数カ月の投資企業に売却された背景とは? - GIGAZINE
「.org」ドメインを売った中の人が売却した理由を説明 - GIGAZINE
この辺は割と以前からギガジンさんが情報を追っているので経緯はそちらを見ていただくとして、

公共性が高い「.org」ドメインが民間の新興投資企業のEthos Capitalに売却された問題で、ドメインデータベースの管理団体ICANNの元事務総長であるFadi Chehade氏がEthos Capitalの共同CEOに就任していたことが判明しました。Chehad氏は、かねてから「.org」ドメインの買収を裏で手引きしていたと指摘されている人物です。

元ICANN事務総長が「.org」ドメインを買い取った投資会社の共同CEOに就任 - GIGAZINE

うーん、くさっとるね!



ここで本当に皮肉で、だからこそクッソ面白いのは、一般にはICANNってまさにネット黎明期にあった「国境のないグローバルなわれらのインターネット世界!」の理想に燃えた民主的な組織を目指していたわけですよ*1
――だからこそ設立当初彼らが目指していた「世界中の誰もでも投票できる」直接民主制度に近いシステムは、国際団体などにとってのある種の理想像だった。
(あんまりうまくいかなかったけど)
しかし、結局、悲しいことに他の国際機関にあるような『民主主義の赤字』を解消しようとしたすばらしい非営利組織だからこそ、かのようにICANNは公共の利益ではなく個人的利益を優先させるロビー活動に隙を与えてしてしまった。


ちなみに、あんまりうまくいかなかった理由の一つが、そうやって世界中誰でも投票できるシステムを運用してみても、結局「我が代表を理事会に!」なナショナリスティックな運動が勝ってしまう点にあるんですよね。
……まぁそうしたシステムの隙間を最初に突いたのが我らがニホンジンだったんですけど。政策ではなく同じムラ出身の人物だから支持しよう!
世界中誰でも投票できる直接民主制度を前提にした場合、自国民を一杯動員すればそれだけ投票で有利になる!
なんて大人げなく身も蓋もない人たち。


だからまぁ今回の件も、結局そうした民主制度が根本的に抱えるシステムの欠陥を突かれただけ、ということはできてしまうんですよね。
ICANNが管理運用するインターネット資源を使って一儲けしようと考えるならば、正しく民主主義手法に則ってロビー活動(金)を使ってお仲間を送り込めばいい。
そこで掛かるコストをリターンが大幅に上回るのであれば、むしろやらない理由が無い。
まぁ普段我々が様々な選挙システムでもよく見る見慣れた光景ではあるかもしれない。
それを「国家を超えた権限」を持たせようとする、グローバルな機関でやられるとシャレにならないんですけど。




国際機関の『民主主義の赤字』を解消しようとする試みの果てにあるもの。
(実際にどうなるかはともかくとして)まぁポストコロナ世界に生きる私たちにとって、あるいはオリンピック招致でも見られたように、昨今よく考えさせられてしまうお話ではありますよね。
それこそ「中国の犬」と評価されたテドロスさんだって、結局は正当な選挙によって選ばれたわけだし。
民主主義の赤字を解消しようとすればするほど、組織力のある利益団体によって選挙結果が支配されてしまう可能がある。
ICANNの「.org」売却騒動ってつまるところそういうお話なんじゃないかと。




我々が昨今考えるようになった国際機関に求めているはずの、民主主義制度における直接投票とロビー活動の危険性について。
地球規模の問題を解決するために、大きな権限を持たせる引き換えに透明性と公平性を確保しようとすればするほど、しかしそこでは悪意を隠した狡猾な参加者の排除は難しくなっていく。
それともやっぱり地球規模の問題は、そうした国際機関や条約に頼ることなく、今やっているように我々が個々に「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に」対応すればいいのだろうか?
あるいは中国的手法のような「資質ある」人たちによる密室政治で全て決めてしまうのが正解なのか?


昨今のWHOとコロナ、あるいは地球温暖化問題の解決を願う、グレタさんのような子供は別にいいとして、より実効性のある国際協調を願う「大人な」リベラルなみなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ちなみにもう一つ切実な理由としては、非営利団体ながら「独占的に」インターネット資源管理をする彼らはあくまで一般会員の代表だという建前によって、特にアメリカ政府から反トラスト法の適用を避けようとする現実的な理由もあった。