経済相互依存性は『戦争』だけでなく『普遍的人権』という価値観をも終わらせることができるだろうか?

大きくなっても、かしこいかわいい中国共産党! の挑戦の行く末。



習氏「世界の中国経済依存高めよ」…制裁発動に対抗、共産党会議で指示 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン
ということで昨日の通常日記でも少し言及した、現代中国による我らが国際社会()に対するユニークな挑戦、に関する適当なお話。

 習氏は演説で、世界のサプライチェーン(供給網)などを巡り、「我が国への依存関係を強め、(中国に)供給を停止する外国への強力な反撃・抑止力を形成しなければならない」と主張した。「奥の手となる技術を磨かなければならない」とも語り、通信設備や電力施設などの分野を重視する考えを示した。

習氏「世界の中国経済依存高めよ」…制裁発動に対抗、共産党会議で指示 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン

彼が言っていることって、ノーマン・エンジェルの『大いなる幻想』、あるいはトーマス・フリードマンの『フラット化した世界』ほとんどそのままなんですよね。
相互依存が生む経済的合理性によって戦争は抑止されるだろう。
それどころか、その抑止されるだろう対象が『戦争』にとどまらず、『経済制裁』という面にまで理論を正しく拡大させている。


つまり経済関係の相互依存が進めば、例えば人権問題を批判することもまた同様に同じ理由で避けるだろう、という身も蓋もない現実を見事に看破しているわけでしょう。
まさに中国の経済的影響を気にして彼らの国内問題にまったく強く批判できない私たちの姿そのままに。
ノーマン・エンジェルさんの『大いなる幻想』の二面性 - maukitiの日記
不完全な『幻想の平和』世界に生きるヨーロッパとロシア - maukitiの日記
これまでも何度か日記ネタにしてきたこの愉快な構図ではありますが、その歪な相互依存性をもっと利用しようと中国共産党自身からその言葉が直接的に出てくるのはホント愉快で、私たちの足下を見られた話だと思うんですよね。

経済的結合のもたらす一つの帰結。つまり、もし相互依存に「戦争抑止の効果」があることを(多少なりとも)認めるのならば、逆説的に「戦争抑止の為の行動抑止」さえもあることを認めることになる。ロシアは経済的結び付きの強いヨーロッパと本気で対立するつもりはない、というのが真であるのならば、ヨーロッパは経済的結びつきの強いロシアと本気で対立するつもりはない、も同時にまた真となる。

不完全な『幻想の平和』世界に生きるヨーロッパとロシア - maukitiの日記

ヨーロッパとロシアの現実を見た中国の解答が、「我が国への依存関係を強め、(中国に)供給を停止する外国への強力な反撃・抑止力を形成しなければならない」という演説でもある。。
上記リベラルな人たちが「グローバル化は世界から戦争を無くすのだ!」と理想を語ったのとまったく同じ理屈で、中国共産党は「グローバル化によって世界から人権問題等を理由にした経済制裁を回避するのだ!」と言っている。
その演説は、悲しいかな、おそらく、正しい。
戦争だけでなく普遍的人権という価値観まで終わらせる(かもしれない)なんて、グローバル化ってすごいね!





ただ一方で、誤解されがちなお話*1ではありますが、そもそもノーマン・エンジェルさんにしてもただ単純に「グローバル化によって経済相互依存が進めば戦争は無くなる」と言っていただけじゃないんですよね。
むしろそこにあったのは「戦争をすれば経済に致命的なダメージを受けるのだから、賢いかわいい政治指導者であればそれを避けるのは当然の帰結である」という前提がまずあったわけですよ。
まぁ確かにその通りだと頷くしかない。常識的に考えれば戦争なんてやっても仕方ない。
ところが、合理的とはとても言えない愚かな私たち大衆は、見事に、合理的とはとても言えない政治指導者を選んで失敗してきた。


それこそ中国脅威論について、しばしばその議論の焦点は、中国という国家の未来予想について「戦争という手段に訴えないという合理的な選択肢を選ぶだろうか?」という点になったりしますけども、でもそれって私たち民主主義国家の側だって同じなんですよね。
……かつて失敗した私たちが大きな顔をできるはずもなく。


いやそれどころか現在進行形で、(トランプの方を見ながら)はたして、僕たち民主主義国家はこれからもきちんと合理的判断を下せる、賢いかわいい政治指導者を選ぶことができるかなぁ~???
皮肉にも中国が目指す「経済制裁を避けるさえたやりかた」というのは、私たちの合理的行動の有無に掛かっている。


私たちは今回こそ、経済的合理性を理由にして、中国の覇権主義や人権侵害を無視することができるだろうか?
あるいはこうした中国の対抗策も、『大いなる幻想』となってしまうのだろうか?


みなさんはいかがお考えでしょうか?
 
 

*1:当日記でもこれまで何度も、揶揄気味にわざと単純化して日記ネタにしてきたので人のことは言えない。